全固体電池〜コーヒーブレイクしながらわかる
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全固体電池って何?
そもそも全固体電池って何でしょうか。
まず簡単に、高校の化学の授業でも習ったボルタ電池の仕組みについておさらいしておきましょう。
ボルタ電池では、イオンになりやすい亜鉛が、電子を離して亜鉛イオンとなって電解質である硫酸に溶け出します。
負極である亜鉛板から放出された電子は、銅線でつながった正極である銅板で硫酸中の水素イオンと結びついて水素分子となって空気中に出ていきます。
次にリチウムイオン電池の仕組みです。
リチウムイオン電池が放電する時は、負極でリチウムイオンが電解液に溶け出す時に電子が放出されます。リチウムイオンは電解液を泳いで進み、正極と結合します。そして充電する時は、放電時の逆で、正極からリチウムイオンが電解液に溶け出して、電解液の中を進んで、負極に結合します。
この、イオンの通り道である電解液を固体の電解質に変えたものが全固体電池です。
電解質を固体とすることのメリットは、まず、危険な物質である電解質が液体だと液漏れしたり発火する恐れがあり致命的な事故につながる可能性がありますが、固体ならばそういった心配がなく、安全です。
液体の電解質は、高音では蒸発が起こり、低温では粘度が高くなることから高温でも低温でも性能が落ちますが、全固体電池は温度変化による影響がずっと小さくて済みます。
高温となっても発火の危険がないことから急速充電ができ、従来の数分の1程度の短時間での充電が可能となります。
固体であれば薄くしたり、重ねたり、折り曲げたりなど、形を自由に作ることができます。
冷却の仕組みや電極どうしのショートを防ぐセパレーター、液体を囲むケースなどが不要となるので小型化できます。
そのため、重さ当たりや体積当たりのエネルギー出力量を大きくすることができます。
さらには、電解質が液体だと電解質の中をリチウムイオン以外の物質も移動し、それが劣化の原因となりますが、固体であればそのようなことがないので、電池の寿命が長くなります。
このように全固体電池は良いところが盛りだくさんであり、様々な分野での利用が考えられますが、なかでも電気自動車に搭載できれば、電気自動車の性能は大いに高まると期待されます。
今の電気自動車は一度の充電で走れる距離が短いことが普及の大きな妨げとなっていますが、全固体電池ならば大容量のものを搭載できるので、走行距離をガソリン車なみに伸ばすことが可能です。充電に時間がかかることも今の電気自動車の問題点ですが、高速充電が可能な全固体電池ならば10分程度で充電できるようになります。また、自動車にとって何よりも大切な安全性に優れていること、電池が劣化しにくいので中古車価格が下がりにくいこと、温度差に強いので高温や寒冷地での使用にも耐えられることなども全固体電池が期待される理由です。
全固体電池の開発の進展状況
電解質を固体にすることのメリットは非常に大きいので、全固体電池の研究は数十年も前から行われているのですが、開発に時間がかかっているのは、二つの大きな課題があるためです。
一つは、液体の場合に劣らずリチウムイオンが自由に移動できる固体の電解質の材料を何にするか、という点です。
もう一つは、固体の電解質と電極との間の接触面積は、電解質が液体の場合に比べて小さくなってしまう、という点です。接触面積が小さいと電解質と電極との間のリチウムイオンの移動の抵抗が大きくなってしまいます。
例えるならば、従来のリチウムイオン電池では、プールの中をリチウムイオンが泳いでいったりきたりします。全固体電池では、電極から出たリチウムイオンは、まず細い橋を渡り、その後、倒木などもある砂利道を進み、目的地の直前でもう一度細い橋を渡るのですが、現在、二つの電極を舗装道路でつなぎリチウムイオンが高速で移動できるようにするべく、新たな材料や技術の開発が進められているのです。
全固体電池の電解質は、大きく「酸化物系」と「硫化物系」に分けることができます。酸化物系は、安全性が高くて寿命が長く、形状の自由度が高いという特徴があるのですが、目下のところは導電率が低いことなどからパワーが小さいという欠点があります。他方で硫化物系の電解質は、導電率が高いことなどから大きなパワーを出せる一方で、危険な硫化物を使用するので安全面で劣り、安全対策のために容器が大きくなるといった欠点があります。
このうち、酸化物系は、安全で寿命が長く形状が自由という特徴を活かして電子機器の超小型の電池として既に実用化されています。日本企業では、TDKが2020年2月から量産しており、村田製作所やFDKといった電子部品企業も近く量産を開始する模様です。
一方で、大きなパワーを出せる硫化物系の全固体電池は電気自動車の電池として期待されているものの、今はまだ実用化のレベルではありません。
世界の自動車メーカーが全固体電池の開発を急いでいますが、その中でも、関連の特許の数が1000を超えるというトヨタ自動車が先行しており、同社が2017年の東京モーターショーで全固体電池を搭載する車を2020年代前半に実用化すると宣言したことは、大きな話題となりました。同社は2021年中にも試作車を公開する模様です。
フォルクスワーゲンは、2012年よりアメリカの電池開発ベンチャー、クアンタム・スケープ社と全固体電池の開発で協力しており、2025年の実用化を目指しています。
日産自動車も2028年をめどに実用化を目指しているとのことです。
自動車メーカーの動きに合わせて素材メーカーでの開発が進んでいます。報道によれば、三井金属は固体電解質を開発中で、2021年にはトヨタの試作車の発注に応じられる規模の生産を開始するとのことです。出光興産は、自動車向けの固体電解質の生産設備を2021年の1月から3月期にも稼働させる計画です。日立造船は既に2016年に全固体電池の試作品を完成させており、現在ホンダでの性能評価を受けている模様です。
2018年に新エネルギー・産業技術総合開発機構、通称NEDOにおいて、全固体電池の研究開発プロジェクトの第2期が開始されました。このプロジェクトには、トヨタ、日産、ホンダの自動車メーカー3社や材料メーカーなど合計23社と大学・公的研究機関15法人が参加しており、企業間の垣根を取り払い、オールジャパンの体制で、全固体電池の2022年までの実用化が目指されています。
editorial notes...
省略(動画本編でご覧ください)