米中関係 悪化の経緯と今後〜コーヒーブレイクしながらわかる
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2020年1月にかけての米中貿易戦争
まずは2020年の年初にかけての米中貿易戦争について簡単におさらいしておきましょう。なお、詳細については2020年1月16日の動画をご覧ください。
米中貿易戦争はトランプ大統領の登場によって始まります。トランプ大統領は、アメリカ人の雇用を奪うものとして貿易赤字を悪いものと考え、アメリカの赤字の約半分を占めている、中国のアメリカへの輸出は大いに問題だとしました。
2018年7月、アメリカはロボットなど340億ドルの輸入に25%の上乗せ関税を課しました。これに対し中国が同じ規模の関税で対抗すると、翌月にアメリカは、さらに半導体など160億ドルにも25%の上乗せ課税を課すとし、中国は同じ規模の関税で対抗しました。さらに9月、アメリカが家具・家電など2000億ドルの輸入に10%の上乗せ関税を課すとすると、中国は、アメリカからの輸入額の範囲内で対抗関税を課しました。
2018年の後半にアメリカは、安全保障上問題がある活動をしているとして、中国の通信機器大手のファーウェイ社の製品をアメリカ企業や同盟国が使用しないよう要請し、また、アメリカ政府の要請でファーウェイ社の副会長がカナダで逮捕されるという事件が発生しました。
翌年5月、全150ページに及ぶ合意文書案に対し中国側が、それまでの交渉を白紙に戻すかのような全面的修正を求めました。
怒ったアメリカは、対中関税第3弾の税率を10%から25%に引き上げます。中国も対抗して税率を25%に引き上げました。
そして2019年9月、アメリカは3243品目1200億ドル分に15%を課し、残った1600億ドル分に対しても12月15日に関税を発動するとしました。これに対し中国は、残っている750億ドル分に対し、2回に分けて最大10%の関税を発動すると表明しました。
しかしその後、両国はいったん雪解けの方向に向かいます。
アメリカは、予定していた第1弾から第3弾の上乗せ関税の25%から30%への引き上げや、第4弾の1600億ドル分に対する関税発動を見送りました。一方の中国も予定していた報復関税の中止を発表しました。
そして2020年1月、第一段階合意がなされました。アメリカは第4弾関税の、1200億ドル分に対する税率を15%から7.5%に引き下げました。中国は、アメリカ産農産品の購入の拡大、知的財産権の保護の強化、技術移転の強要の是正などを約束しました。
2020年3月以降の中国の動き
2020年3月になり、中国での新型コロナウイルスの拡大がおさまり、他国が感染拡大への対応に追われ、混乱しているすきを衝くかのように、中国は強引な対外姿勢を示すようになります。
4月には中国の警備船が体当たりでベトナム漁船を沈没させ、さらには空母「遼寧」などが参加する訓練を南シナ海で実施しました。
台湾海峡でも軍用機による威嚇的な行動を繰り返しており、東シナ海でも、尖閣諸島の周辺で中国の警備船が日本の漁船を追い回したりしました。中国の警備船は4月17日から111日間連続で尖閣諸島周辺を航行しましたが、これは日本の尖閣諸島の国有化以降で最長日数です。
中国の西側でも、6月にインドとの国境付近で衝突し、中国とインドの衝突で45年ぶりに死亡者が出ました。7月には中国がブータン東部の領有権を新たに主張しました。
2020年5月末、中国の全人代は香港を対象とする国家安全維持法を制定することを承認しました。国際社会からは、香港返還時に中国がイギリスと交わした一国二制度の約束に反するものだとして、強い反発がありましたが、わずか1ヶ月後に同法は成立しました。7月1日の施行後すぐに香港独立と書かれた旗やプラカードを持っていた人などが逮捕され、8月には、メディア王のジミー・ライさんや、民主の女神として日本でも有名なアグネス・チョウさんなどの民主活動家が逮捕されました。
2020年3月以降のアメリカの動き
2020年5月、アメリカのトランプ大統領は、新型コロナウイルスの流行をめぐる中国の対応を痛烈に批判しました。また、米中貿易交渉の第一段階合意で中国が約束した農産品などの追加購入が進んでいないと言って強い不満を示すなど、中国に対する批判的発言が目立つようになり、中国に対する制裁措置を矢継ぎ早に繰り出していきます。
5月20日には、アメリカに上場する外国企業に外国政府の支配下にないことを証明するよう求め、アメリカの当局による会計監査の状況の検査を義務付ける法案が上院で可決されました。これは実質的に中国企業をアメリカ市場から締め出すことにつながりかねない内容です。
2020年7月22日、アメリカ政府は、知的財産を盗んでいるとして、テキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命令しました。中国政府はこれに対抗して、四川省成都にあるアメリカ総領事館の閉鎖を命じました。
2020年8月6日、トランプ大統領は、国家安全保障上のリスクがあるとして、動画投稿アプリTikTokを運営する中国企業バイトダンスと、同じくチャットアプリのウィーチャットを運営するテンセントとの取引を、45日後から禁止する大統領令に署名しました。
それから、今年になって新たに導入された制裁措置ではありませんが、2018年8月に成立した、アメリカの国防予算の大枠を定める国防権限法に基づく措置の第一弾として2019年8月に、アメリカ政府が通信機器大手のファーウェイやZTEなど中国の企業5社の製品やサービスを調達することが禁止されており、その第二弾として、2020年8月、中国5社の製品を、一般企業を経由して間接的に使用することも禁止されることになりました。
香港問題に関連して、アメリカは、2019年11月に香港人権・民主主義法を成立させ、香港で人権を侵害した当局者のアメリカ入国や在米資産の凍結、ビザの取り消しなどの制裁を科すことなどを規定しているのですが、この規定に沿って、2020年8月に香港政府のキャリーラム行政長官や中国の高官11人に対して米国内資産の凍結などの制裁を科しました。
2020年7月、アメリカ議会は、香港人権・民主主義法からさらに一歩進んで、香港の自治を侵害した人物と取引をする金融機関にも制裁を科すとする香港自治法を全会一致で可決しました。
中国の金融機関に制裁が発動されれば、実質的にドルの取引ができなくなるので国際金融市場から締め出されることになります。これらの銀行と取引する中国企業も、ドル建ての決済ができなくなって貿易業務に深刻な影響が出ることになります。また、HSBCなど香港ドルの発行銀行は、米ドルと香港ドルを固定レートで常に交換するという約束のもとで香港ドルを発行しているので、もしそれらの銀行が制裁の対象となって米ドルの取引ができなくなると、香港の通貨制度が崩壊することになります。
トランプ大統領は、香港自治法に署名すると同時に、香港への優遇措置を停止する大統領令を発表しました。アメリカは香港が返還されるときに制定した「アメリカ香港、政策法」によって、一国二制度が守られるという前提のもと、貿易や投資について、返還後も香港に対し中国とは異なる優遇を認めてきているのですが、この大統領によって、香港籍パスポート保有者への優遇措置、香港への輸出にかかる許可の例外など、一部の優遇措置が停止されることになります。
米中関係悪化の原因と今後
2020年になってからアメリカは、中国に対し、これまで以上に厳しい態度をとっていますが、その理由の第一は、やはり香港国家安全維持法の制定でしょう。トランプ大統領は、ボルトン回想録の動画でも触れたように、中国の人権問題にあまり首を突っ込みたくない思っているようですが、香港自治法が議会で全会一致で可決されたことからもわかるように、アメリカとしては香港の一国二制度の崩壊と中国の人権侵害に対する関心は高く、トランプ大統領としてもそれを無視することはできないのです。
理由の第二は、新型コロナウイルス感染症の流行です。アメリカは、世界で感染者が最も多い国となっています。経済は、リーマンショックを越え、90年前の世界大恐慌に迫る危機に陥ろうとしています。こうした状況のなかでトランプ大統領は、中国に責任を転嫁することで、自分に向けられる批判の目を逸らそうとしていると言っていいでしょう。
2020年が大統領選挙の年であるということも大いに関係していると言っていいでしょう。悪役に仕立てた中国に対して決して屈しない強い大統領というイメージをつくることが票につながる、という考えです。トランプ大統領は、民主党候補のバイデン氏が「中国に甘い」と印象づけることで選挙戦を戦おうとしています。一方のバイデン氏もトランプ大統領こそ中国に甘いと反撃しており、両陣営ともに中国に対する厳しさを争う形となっています。
そして、中国の覇権主義的姿勢が今年になってより鮮明となっていることです。中国の南シナ海での活動の活発化や、欧米諸国による強い反発のなかで香港国家安全維持法の導入を強行したことなど、2020年になって中国はアメリカの覇権に挑戦するかのような動きを見せています。対する現覇権国のアメリカは徹底抗戦する姿勢です。ファーウェイ社などハイテク企業に制裁を科すのも、アメリカに上場する中国企業を締め出そうとするのも、TikTokやウィーチャットの使用を禁止するのも、みなハイテク分野における覇権争いと言うことができます。
では、今後の米中関係はどうなっていくのでしょうか。
中国は、2019年までのように経済問題が中心であれば、メンツを捨ててでも妥協をして経済的利益をとるということもありえ、実際に中国はそうして、2020年初の米中貿易交渉第一段階合意に至りました。しかし、香港の問題などは中国の側から見ればイデオロギーの問題であり、イデオロギーの問題で中国が妥協することはまずないでしょう。ゆえに中国が歩み寄る余地は小さいと言わざるを得ません。また中国は、2020年になって、覇権国の地位に向かって舵を切ったようにも見え、一度切った舵は、容易には元に戻さないでしょう。
米中関係は、イデオロギーの対立が根底にある覇権争いの時代に入ったと言っていいのかもしれません。だとすると、米中の対立は、かつての米ソの冷戦のように、長期化する恐れがあると言わざるを得ません。
Some clues...
省略(動画本編でご覧ください)