COVID-19(新型コロナ肺炎)の経済への影響【後編】日本の経済損失は2兆6千億円
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4-1. 中国向け輸出の減少による影響
新型肺炎が日本経済に影響を及ぼす経路はいくつもありますが、まずは中編と同様に、中国向け輸出、減少を通じた、ルートについて考えてみましょう。
日本にとって中国はアメリカと並ぶ重要な輸出相手国であり、全輸出のうちのおよそ2割が中国への輸出です。
前回みたとおり、中国への輸出額がGDPに占める比率は、アメリカはわずか0.7%、EUも1.1%に過ぎず、そのため中国の景気が減速して中国の輸入が減少しても経済はほとんど影響を受けませんが、日本はこの比率が約3%で、アメリカやEUに比べればずっと影響を受けやすいということができます。
とはいえ、韓国、ASEAN、オーストラリアのように中国への経済的依存度が高く、この比率が6%を超える国々に比べれば影響は軽微で済むでしょう。
また、日本の輸出品は自動車部品、プラスチック、IC、電気回路等、現地の日系企業で製品に組み立てられ再輸出されるものも多いため、資源中心のオーストラリアや、農産品や食料加工品を多く輸出するASEAN諸国など、中国国内で消費されるものを多く輸出する国々に比べれば中国の国内経済の状況に影響をされにくいといえます。
具体的に日本経済はどの程度の影響を受けるのでしょうか。2007年に経済産業省が作成した日中国際産業連関表によれば中国の需要が1単位、変化すると日本のGDPは0.022誘発されます。前編で、推計したように中国経済が年間で2.6ポイント減速すると仮定すると、日本のGDPは9000億円減額すると計算できます。
2007年の調査は古いので、2012年に発生した中国向け輸出の減少が日本のGDPに及ぼした影響についての経済産業省の試算で検証してみましょう。2012年は中国が比較的大きな景気後退を経験し、成長率が前年の9.6%から7.9%へと、今回の新型肺炎で見込まれる減速幅に近い落込みがあった年です。
この試算は、中国への輸出減少により日本のGDPは1兆1962億円押し下げられたと推計しています。
2012年は欧州財政危機を契機にして世界経済が減速した年ですので、日本のGDP減少幅は、そのために大きめとなったと考えれば、中国向け輸出減少により日本のGDPが9000億円減るという結論は概ね妥当といえそうです。
4-2. インバウンドの減少による影響
次に、いわゆるインバウンドの減少による影響を見てみましょう。
街を歩くとすぐわかるように、新型肺炎の影響で中国人観光客が激減しています。この状態は、新型肺炎が収束するまで続くと予想され、ホテル、交通、観光地など観光関連の業種はもとより、飲食、小売など中国人観光客の利用の多い業種が大きなダメージを受けています。
2019年の訪日外国人3,188万人のうち959万人が中国人旅行者で、そのうちの3割が団体旅行者だったのですが、中国政府は感染拡大を防ぐために全国民を対象に団体旅行を禁止しており、それが2月から6月の5ヶ月間続くとすれば、訪日旅行者数が120万人ほど減少することになります。団体旅行以外の旅行者については、訪日旅行者が激増する前の、訪日中国人が年間約100万人だった2000年代の状況になると仮定し、それが3ヶ月続くとすれば、143万人減ります。
観光庁のアンケート調査によると訪日中国人の平均消費額は21.3万円なので、5,602億円の消費減少が見込まれます。
中国人以外についても、日本での感染者数の増加を受けて、2月中旬頃より世界で日本への渡航を敬遠する動きが広がっています。そこで、中国人以外の訪日外国人についても2000年代の人数に減ると仮定し、その状態が3ヶ月続くとすると、382万人減少することになります。中国人以外の訪日観光客の平均消費額は13.4万円なので、消費減少額は5,132億円となります。
訪日中国人と中国人以外の訪日外国人の消費減少額を合算するとおよそ1兆円となります。そして消費の減少は他の産業にも波及して経済活動を縮小させるので、その分を勘案すると1兆2000億円ほどGDPが押し下げられると推計されます。
4-3. 日本経済を悪化させるその他の要因
中編でも述べたように、サプライ・チェーンの寸断が経済に及ぼす影響も懸念されています。
新型肺炎の震源地である武漢市やその周辺には約500もの自動車メーカーや部品メーカーが立地していますが、各社春節休暇後の操業再開がなかなかできず、再開ができても、春節で帰郷した職工がそろわなかったり、他社からの部品が入らなかったり、などにより、フル操業に戻るには1、2ヶ月かかるとみられています。
自動車は3万点もの部品を使用すると言われますが、日本の自動車メーカーも武漢や湖北省などの中国製部品を多数使用しており、日本への部品供給が滞れば、日本国内での生産にも影響が出る恐れがあります。
また、中国には多数の日本企業が進出しており、それら中国進出企業の生産の遅れも発生しています。ホンダや日産、ダイキンなどが武漢に工場をもっていますがその生産は停滞し、京セラの上海の工場などでも生産の遅れが出ていると報じられています。
日本企業の製品の中国での販売低迷も懸念されます。日本の自動車メーカーの中国での販売台数は日本国内販売に匹敵しますが新型肺炎が落ち着くまで売れ行きが落ち込むことは確実でしょう。ユニクロの売り上げのうち香港、台湾を含む中国での売り上げは26%を占めますが、中国国内の750店舗のうちおよそ半数の店舗が営業を一時、休止した模様で、売上に大きな影響が出ると予想されます。
さらに、日本での感染が拡大し、2月下旬から日本国内でもイベントを中止したりレジャーを自粛するなどの動きが急速に広がっており、日本の国内消費が冷えて景気が下押しされる可能性も強まってきています。
グラフは東日本大震災前後の消費動向を示したものです。2011年3月に震災が発生し、5月頃には消費自粛ムードが広がっていたので、これを参考にして消費が2%、1ヶ月間落ち込むと仮定すると、消費の減少額はおよそ5,000億円と見積もることができます。
4-4. GDPへの影響を試算すると
最後に、今回の新型肺炎により日本のGDPが受ける影響を推計しておきましょう。
中国向け輸出の落込みによるGDP減少額が9000億円、インバウンド落込みによる減少額が1兆2000億円、日本国内の消費落込みが5000億元で、合計すると2兆6000億円のGDP、減少が見込まれます。これは日本のGDPのおよそ0.5%に当たります。
IMFは2020年の日本のGDP成長率見通しを当初0.5%としていましたが、経済対策の効果が見込まれるとして1月に0.7%に引き上げました。ところが翌月、内閣府が2019年10-12月期のGDPが前期比6.3%ものマイナスとなったと発表し、消費税増税の影響などにより日本の経済状況が一般の予想よりも悪いことが明らかになりました。そこで新型肺炎が発生しなかった場合の2020年のGDP成長率を、IMFが上方修正する前の0.5%と仮定してみましょう。
輸出やインバウンド減少によるGDP減少額は0.5%と推計できたので、2020年、日本経済の成長率はほぼゼロとなると予測することができます。
そしてさらに、サプライチェーン、寸断による生産停滞や世界経済の減速などが加われば、2020年の日本経済はマイナス成長に陥る可能性が低くないと結論することができるでしょう。
editor's note
省略(動画本編でご覧ください)