大恐慌
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1.大恐慌とは
大恐慌は1929年にアメリカから始まった世界規模の深刻な経済危機のことです。世界のGDPは1929年からの数年で10%以上減少し、震源地であるアメリカのGDPは実に25%以上も減少しました。
世界中が失業者で溢れ、アメリカでは4人に1人が失業しました。物価が大きく下落し、アメリカの物価は25%程度も下がり、農産物の価格も半分以下に下落したので都市住民のみならず農村も深刻なダメージを受けました。
景気は1933年3月にいったん底を打ちますが、経済が戻りきっていない1937年5月に再び厳しい景気後退期にはいり、アメリカ経済が正常に戻るのは世界恐慌の始まりから12年が過ぎた1941年頃のことでした。
2008年のリーマンショックのときに大恐慌の再来かとも言われましたが、経済の落ち込み幅も期間も大恐慌は桁違いの規模であったことがわかります。
2.大恐慌の原因
大恐慌の原因については諸説がありますが、それら複数の原因が複合的にあわさった結果、未曾有の恐慌が生み出されました。
原因のひとつは、景気循環の流れのなかで生じたバブルとその崩壊です。
第一次世界大戦が終わり、復興需要に応じるためにアメリカでは生産設備を増強するための積極的な投資がなされました。1920年代に入るとアメリカは大変な好景気に沸きます。好景気のなかで株式投資ブームとなり、経済はバブルの状態となっていきます。
しかし祭りはいつまでも続きません。1920年代後半には設備と生産の過剰が生じ、1929年9月から株価が下落し始めます。そして10月には大恐慌の始まりとしてよく知られる株価の大暴落、いわゆるブラックチュースデーが発生しました。
株価は3年間で8割以上も下落します。株式投資ブームのなかで積極的に投資を行なっていた人々が大きく消費を減らし、これが景気を後退させるひとつの原因となりました。
次に、金融政策の失敗も大恐慌の原因としてよく挙げられます。
アメリカの中央銀行であるFRBは株式市場の投機を抑えるために1928年から引き締め政策を実施し、それが株価暴落の一因となりました。また、1931年にイギリスが自国通貨ポンドの金との連動を停止し、ポンド安が進行しますが、アメリカのFRBは、ドルと金との連動を維持するために、景気が悪化するなかであるにもかかわらず金融引き締めを実施しました。
市中に出回るお金が収縮して物価下落、デフレーションが生じました。物価が下落すると企業の収入の金額は減るのに負債の返済額は減らないので借りたお金を返せない企業が続出します。賃金の金額は変わらなくても実質的な賃金が上昇することでも企業の負担は増加し、企業倒産が激増します。そして銀行破綻の連鎖が発生し、それがまた市中に出回るお金を収縮し物価を下落させるという悪循環が生じました。年率マイナス10%も物価が下落すると実質賃金の急上昇に耐えられず企業は雇用を縮小するので、その結果失業率が25%にも達することになりました。
財政政策も、当時のフーバー大統領は、経済は市場原理に任せておけばいいという考え方であり、そのため対応が遅れることになりました。1933年にルーズベルト大統領が誕生し、経済に政府が積極的に関与するという考えのもとでニューディールと呼ばれ各種経済政策を実施して、ようやくアメリカは恐慌から脱することになるのです。
3.大恐慌の傷跡
不況から脱するため、列強諸国は自国との経済関係が深い国々とブロック経済圏を形成しました。ブロックの外との貿易には高い関税を課すなどしたことから世界貿易は7割も減少したと言われ、広い経済ブロックを持たず苦境に陥った日本などが、アメリカ、イギリス、フランスなど広いブロック経済圏を持つ国に挑んだことが第2次世界大戦の要因のひとつであったことはよく知られています。
4.大恐慌は再来する?
新型コロナ肺炎により大恐慌なみの不況が訪れるのではとの懸念が広がっていますが、約1世紀前の悪夢が現代に蘇ることはあるでしょうか。
大恐慌と、2020年のコロナショックや2008年に発生したリーマンショックとを比べてみると、直前に大変な好景気がありバブルが発生していた点、その崩壊後に信用不安が発生した点などで共通点があります。
しかし政策面では大きな違いがあります。金融政策については、新型コロナ肺炎が急拡大するなかでアメリカFRBは政策金利を二度にわたり1.5%引き下げ事実上のゼロ金利政策に移行し、また、2兆ドルを超えるジャンク債の買い入れや企業向け融資など巨額の量的緩和策の実施も決めています。その他の国々もゼロ金利政策と大規模な量的緩和策を実施しています。
財政政策については、先ごろアメリカはGDPの10%超にあたる2兆ドルの巨額の財政支出を決めました。この資金は家計に対する現金支給、企業に対する融資や特別支援などに使用されます。リーマンショックでは7000億ドル規模だったので、それを大きく上回ることになりますが、これはリーマンショックが金融面でのショックから始まったのに対し、コロナショックは感染症拡大による消費の急減という実態経済でのショックに起因しているので、財政政策がより重要となっているのです。
国際協調の面では、大恐慌では、他国より先に金本位制度を捨て自国通貨を安くした国がいち早く不況から抜け出ましたが、その一方でアメリカや日本など金本位制度を維持した国の回復は遅れることになりました。また、各国が経済のブロック化を進めたことで貿易が激減し、それが景気の谷を深くしました。リーマンショックでは主要国による協調利下げが速やかに実施され、コロナショックでも、主要7カ国首脳がいち早く「金融・財政政策を含むあらゆる手段を動員する」との共同声明を出しています。
人類は大恐慌から多くを学び、リーマンショックでは学んだことを活かして短期間での回復を果たしました。コロナショックでは、リーマンショックのときをも越える規模の各種の対策が採られているので、大恐慌が再来するようなことはまずないと思われます。
5.コロナショックのあとの世界
大恐慌の経験が存分に活かされることで大恐慌クラスの不況が再来することはないと思われますが、大規模な金融・財政政策の実施は、劇薬を飲むようなものであり、副作用が起きる可能性についても考えておかなければなりません。
リーマンショックのあと、大規模な金融緩和と量的緩和により世の中にはおカネが溢れてしまいました。コロナショックではリーマンショックを越える規模の金融政策が実施されており、カネ余りは一層ひどくなると予想されます。余ったおカネは金融資産や不動産などに向かって次のバブルを生むもとになるでしょう。
すると金融資産や不動産などを持つ人と持たない人との間の格差が広がります。格差が広がれば、人数では多数を占める持たない人々に迎合するポピュリズムが醸成されるでしょう。大恐慌では多くの人が職を失い貧困に陥ったことがポピュリズムを生み、それがナチズムにもつながりました。コロナショックで困窮する人が増えると危険なポピュリズムの流れが加速するかもしれません。
大恐慌では経済のブロック化が進みましたが、新型コロナ肺炎でも、世界的流行はグローバル化の産物ともいえるので終息後には反グローバル化が進むだろうと考えられています。反グローバル化もポピュリズムの要因となります。
それから、各国で苦境にある企業を特別融資や現金支給で救済する動きがあり、企業を倒産させないことは恐慌に至るのを避けるためには必要ですが、競争力のあるものが生き残り、ないものが市場から撤退するという市場原理には反します。モラルハザード(倫理観や道徳観の欠如)が生じ、長期的には経済の効率性は損なわれることになるでしょう。
とはいえ、悪いことばかりではないかもしれません。テレワークが一気に広がっていますが、新型コロナ肺炎終息後もこの流れは止まらないかもしれません。すると人々の働き方が大きく変わり、働く場所が変われば都市の形も変わり、人との接し方が変わるので家族や人間同士の関係も変わるでしょう。経済や社会が大きく変化するかもしれないのです。印刷、電気、内燃機関、電波、インターネットなどに匹敵する、人類を前へ進める大きな革新が起きようとしていると言っては言い過ぎでしょうか。
Some clues...
省略(動画本編でご覧ください)