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インフレ〜コーヒーブレイクしながらわかる

本ページでは日本や世界の経済や社会の話題について、わかりやすくかつ漏れのない解説をめざすYoutubeチャンネルオーズ・リサーチ・ラボ掲載の動画の内容をご紹介しています。原則週に1本新作が掲載されますので、ぜひチャンネル登録を!

インフレの何が問題なの?

日常生活でも、「インフレ」ということばを頻繁に目にしたり耳にしたりしますが、インフレとはそもそもなんでしょうか。

インフレは、英語の「膨張」の意味のインフレーションを略した和製英語で、モノやサービスなどの価格が継続的に上昇することです。

インフレは、多くの種類の物が値上がりすることを意味し、商店主が売れ筋商品を値上げするような場合は単なる値上がりであり、通常インフレとは言いません。

インフレとは反対にモノやサービスなどの価格が継続的に下がる状態は、デフレーションの略で、「デフレ」と呼ばれます。

「インフレ」ということばには、ネガティブな響がありますが、インフレの何が悪いのか、はっきりと言える人はあまり多くないのではないでしょうか。全てのモノの価格が一律に上がっても、それと同じ率で全ての人の賃金が上がれば、ほとんど誰も損をすることはなく、すなわち、インフレが発生してもなんら問題はない、と言うことができます。

インフレの最大の問題点は、得をする人と損をする人がいる可能性が高い、ということです。モノの価格が一律に上昇する場合、現金や普通預金をもっている人は、その実質的な価値が目減りするので損をします。年金で生活する人も、年金受給額はすぐには増えないので、インフレで被害を受けます。賃金の上昇が物価の上昇に遅れるのであれば、企業家や株主に比べて労働者が損をすることになります。つまりインフレによって、本人の意思や努力とは関係なく、得をする人と損をする人が発生してしまうのですが、これを経済学的なことばでは、「インフレーションには、強制的な所得再分配機能がある」、と表現されます。強制的な所得再分配が起きると、不公平だから問題、というのはもちろんですが、労働者が働く意欲を失ったり、社会不安が増大したりするなどの悪影響を生む恐れもあります。

なおこれは、かならずしも悪いこととも言えないのですが、強制的な所得再分配機能という観点からは、財政ファイナンスの問題もあります。

政府が発行する国債を国の中央銀行が引き受ければ、実質的に、紙幣を印刷して、財政支出を行うのと同じになります。極端なインフレを起こす恐れがあることから、中央銀行による財政ファイナンスは、日本では法律で禁止されていますが、実際には、いったん市場に出された国債を日銀がすぐに大量に買い入れる形で、実質的な財政ファイナンスが行われています。

財政ファイナンスが深刻なインフレを生んだ例は、世界の歴史では何度かありますが、そのうちのひとつが、前回の動画でご紹介した、第二次世界大戦中に日本が、必要物資を調達するために、中国大陸で大量の紙幣を発行し、86400倍ものインフレを引き起こした事例です。

この例などは、市民から強制的に資源を吸い上げて、それで戦争を遂行し、そのうえ深刻なインフレを起こして経済を大混乱に陥れたという意味で、財政ファイナンスが悪用されたケースと言うことができます。

ただ一方で、インフレがインフレを呼ぶような高率の物価上昇につながらないのであれば、財政ファイナンスを積極的に活用すべき、との考え方もあります。財政支出を増やすために税金を徴収すれば、必ず誰かが得をしたり損をしたりしますし、税制を改正しなくてはならず、納税の手間や徴税にかかるコストもかかります。それよりも紙幣を発行して資金を調達したほうが公平だし、手間やコストも少なくて済んで、ずっといいという考え方です。MMTと呼ばれる考え方ですが、MMT理論については以前の動画で詳しく説明していますので、興味のある方はぜひごらんください。

インフレには、経済の効率性を低下させる可能性があるという問題点もあります。

例えば、1年に物価が何倍にもなる、いわゆるハイパー・インフレが発生すると、人々は、お金を持つのを嫌うようになります。すると、買いだめや、売惜しみが生じるでしょうし、取引は物々交換で行わなければならなくなるかもしれず、経済の効率性が大きく下がることになります。

また、スーパーで売られているような値段を変更しやすいモノもあれば、値段が印刷されている場合など、価格を変更しにくいモノもあり、社会全体でインフレが生じる時に、値段が平均以上に上がる物も、ほとんど上がらない物もあるため、価格の体系が崩れてしまいます。企業は値段を見ながら何をどのくらい作ればいいかを判断し、消費者は何をどのくらい買えばいいかを判断するので、一時的に価格体系がおかしくなると、企業や消費者の行動が、経済的に効率的ではなくなってしまう恐れがあります。

また、スーパーで売られているような・値段を変更しやすい物もあれば、値段が印刷されている場合など・価格を変更しにくい物もあるので、社会全体でインフレが生じると・値段が平均以上に上がる物やほとんど上がらない物が出てきて、価格の体系が崩れてしまいます。 企業は、値段を見ながら何をどのくらい作ればいいかを判断し、消費者は何をどのくらい買えばいいかを判断するので、一時的に価格体系がおかしくなると、企業や消費者の行動が、経済の効率性の観点から最適なものではなくなる恐れがあります。


インフレの原因〜デマンド・プルとコスト・プッシュ

グラフは物価水準と国民所得の関係を示したもので、緑の線は、消費者などが、いくらなら、どのくらい買うかを示す総需要曲線、青い線は、企業などが、いくらなら、どのくらい売るかを示す総供給曲線です。

人々が、貯金を取り崩して消費を増やしたり、金融政策により金利が下がり企業が投資を増やしたりすると、総需要曲線は右のほうへ移動していき、その結果、物価水準が上昇します。第5章でお話しするように、このところアメリカで物価上昇率が高まっていますが、これは、新型コロナ感染症対策の巨額の給付金支給により個人が消費を大きく増やし、その結果総需要曲線が右にシフトしたため、と言うことができます。

また、輸入原材料価格が上昇したりすると、総供給曲線がこのように移動するので、やはり物価水準が上がります。1970年代の石油危機は、総供給曲線がシフトして物価が高騰した典型例です。

この・総需要曲線のシフトによる物価上昇は、需要が引っ張る・という意味で、デマンドプル型インフレと呼ばれます。一方で総供給曲線のシフトによる物価上昇は、コストの増加が押す・という意味で、コストプッシュ型インフレと呼ばれます。デマンド・プル型では、需要が増加し、モノが売れるようになり、すると賃金も増加し消費も増える、という好循環が生まれ、国民所得は増える傾向があるので、「良いインフレ」と呼ばれることもあります。一方、コスト・プッシュ型は、モノの価格だけが上がり、国民生活は苦しくなります。このため「悪いインフレ」とも呼ばれます。また、スタグフレーションと呼ばれることもあります。スタグフレーションは、景気停滞を意味する「スタグネーション」と「インフレーション」を組み合わせた造語です。

インフレ率2%が目指される理由

日本銀行や、アメリカの中央銀行であるFRBなど各国の中央銀行は、2%のインフレ率の達成を政策目標としています。

どうして各国の中央銀行は2%のインフレを目指しているのでしょうか。

それを知るために、まずは、インフレの逆のデフレが、いかに問題であるかをみていきましょう。

インフレが発生すると、将来の10万円は、今の10万円ほどの価値がなくなり、逆にデフレになると、将来の10万円は今の10万円より価値が大きくなります。よって、今10万円を借りて、将来同額の10万円を返すとすると、将来の負担は、インフレのときは10万円の価値が小さくなているので、小さくなり、デフレの時は逆に10万円の価値が大きくなっているので、大きくなります。

言い換えると、デフレは債務者に不利に、債権者に有利に働きます。通常企業はお金を借り入れて事業を行なっているので、デフレは企業の活動を抑制する効果があるといえます。

また、債権者に有利ということは、現金や預金を持っていることが有利となるので、消費者は消費を減らして預貯金を増やす行動に出るでしょう。

このように、企業が投資をせず、消費者が消費を減らすので、デフレのもとでは、モノが売れない活気のない社会となります。さらに、モノが売れなければ、企業はさらに生産を減らし、投資を抑制し、賃金を抑えるでしょうし、賃金が減れば消費も減る、という悪循環が続くことになります。

このような事態に陥った典型例が日本経済です。

グラフは1989年以降の消費者物価の推移です。消費税率の引き上げやリーマン・ショック前後の経済の混乱の時期を除けば、日本経済は1995年ころから2013年ころにかけて、一貫して、緩いデフレの状況にあったことがわかります。いわゆる「アベノミクス」での大規模金融緩和によってデフレ脱却に向かいましたが、コロナ・ショックにより、再び物価は下落傾向で推移しています。

このグラフに日経平均株価の推移を重ねてみますと、デフレの時代、株価はずっと低迷していたことがみてとれます。この時期、デフレが不景気を呼び、不景気がデフレを生む悪循環に日本経済は陥っていたのです。

このようにデフレは、低率であっても、問題があります。一方でインフレは、低率であれば問題がほとんどありません。そのため各国の中央銀行は、平常時の物価上昇率を2%近辺にすることで、景気悪化などにより物価が一時的に下がっても、マイナスとはならないような「のりしろ」を確保しておく、という考え方を採っているのです。

それから、プラスの物価上昇率を維持しておけば、景気が悪化した時に、金利を引き下げる余地を確保でき、金融政策の対応力が高まる、という考え方もあります。

景気に対して中立的な金利水準は、経済が持つ潜在的な成長率と物価上昇率の和となります。潜在成長率が1%で、平常時の物価上昇率がゼロの場合、すぐに金利を引き下げる余地がなくなってしまいます。しかし平常時の物価上昇率が2%ならば、景気悪化時の金利引き下げ余地が確保されます。


日銀の必殺技「量的緩和」って?

中央銀行は、通常、金利を操作することで、物価目標の達成を目指します。例えばインフレ率が低すぎる時に、中央銀行が市中金利を引き下げると、企業が投資を増やし、その結果、総需要曲線が右に動いて、物価水準が上がる、という流れです。しかし経済がデフレ状態に陥っており、既に金利水準がゼロにまで下がっているときは、金利を引き下げて物価を調整するということができません。そこで中央銀行は、金利ではなく、市中に出回るお金の量を調整することを目指します。市中に出回るお金の量が増えれば、お金の価値が下がりモノの価値が上がる、つまりは物価が上昇する、という考え方です。

具体的には、中央銀行が金融機関などが保有する国債などを買い取って、各金融機関が中央銀行に保有している預金口座の残高を増やすという形をとります。

これは、「量的金融緩和」と呼ばれる金融政策で、デフレに苦しむ日本が先進国では初めて2001年3月に導入しました。その後2006年3月に解除されますが、日銀総裁が今の黒田総裁に代わると、2013年4月より大規模な量的緩和が開始され、現在に至っています。また、欧米各国も、リーマンショック後に導入し、新型コロナ感染症流行下でも実施されています。

市中のお金の量を直接操作しようとする量的緩和は、中央銀行の必殺技とも言えるのですが、その効果はどの程度あるのでしょうか。

先ほどみた消費者物価の推移のグラフで見てみると、量的緩和が実施された期間には物価が押し上げられているように見え、確かに一定の効果はあると言ってもよさそうです。とはいえ、目標の物価上昇率2%には達していないので、量的緩和も万能とは言えないようです。

このグラフをよく見ると、量的緩和によって株価が大きく押し上げられていることがわかります。特にコロナ・ショックの時期では、物価はデフレ傾向にあるのに株価は高騰するという、物価と株価が逆の動きをしています。

このため、量的緩和は、物価の押し上げ効果は限定的で、資産バブルを引き起こすだけ、との見方もあります。


コロナショック後のインフレと株価

グラフは、最近2年間の、アメリカのマネタリーベース、つまり紙幣やコインと金融機関の中央銀行当座預金残高の合計の推移です。コロナショック発生後、中央銀行であるFRBはマネタリーベースを、前年同期比で50%以上も増加させました。

下のグラフは、民間に流通している現金の量であるM1の推移です。個人向けの給付金の効果もあってM1は急増し、前年同期比で約4.5倍にもなりました。

では、物価はどうなったかというと、2020年5月頃を底にして、その後回復していきました。ただ、なかなか前年比2%には達しず、2021年の年初まで、前年比1%強の水準が続きました。

その間の株価の推移を見てみると、こちらは大きく伸びています。特にハイテク企業が多いNASDAQ市場の指数は、2020年8月には前年比1.5倍に迫り、2021年3月には前年比で70%も上昇しました。

このことより、通貨供給量の急増は、物価の押し上げ効果は限定的だとしても、資産価格は大きく引き上げる、と言うことができるでしょう。

ただ、ここにきて、物価が急に上がり出していることが注目されています。消費者物価の前年比は、8ヶ月にわたって1%台だったのに、2021年3月に2.6%増と2%を超え、翌4月には4.2%増となりました。

これは、ワクチン接種が一気に進んだことや、3回目の現金給付金が支給されたことなどによると見られ、一時的な上昇とも考えられますが、このまま2%を超えるような物価上昇が続くのならば、FRBは量的緩和の縮小に動くことになります。

量的緩和が縮小されれば、これまでその恩恵に預かって上昇してきた株価は調整を余儀なくされ、中でも上昇率が大きかったNASDAQ上場株は大きく下げるかもしれません。そのため、このところ株式市場は、神経質な展開が続いています。

最後に、日本の状況を見ておきましょう。

グラフは日本のマネタリーベースとM1の推移です。

日本でも、コロナショック発生後、マネタリーベースが増加しましたが、前年比で一気に50%以上も増やしたアメリカに比べれば、かなり緩やかな伸びとなりました。

その傾向は、M1では一層顕著であり、M1はアメリカではわずかの間に数倍に膨らみましたが、日本では、マネタリーベースの伸びをも下回る、15%程度の伸びにとどまりました。

下のグラフは、消費者物価の伸びを示したもので、コロナショック発生後、物価上昇率はマイナスに落ち込み、未だにデフレ状態から抜け出せていないことがわかります。

アメリカが2%の物価上昇を回復した一方で、日本がデフレ状態から抜けられないのは、日銀のマネタリーベースの拡大が、FRBほど積極的ではなかったことが理由のひとつと言っていいでしょう。また、アメリカでは、3度にわたって給付金が支給されるなど、大胆な施策が実施されたのに対し、日本では、全国民向けの給付金が1回で打ち止めになったことなど、アメリカに比べると財政政策も不十分で、日本のM1の伸びがアメリカを大きく下回ったことも理由と考えられます。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 


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