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リブラ2.0とデジタル通貨戦争

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1. リブラの仕組み

まずはリブラについておさらいをしておきましょう。

リブラはFacebookが開発を進めているデジタル通貨です。2019年6月に計画が公表され、2020年前半の運用開始が予定されていました。しかし各国金融当局の反発が非常に強かったことなどから、2020年4月に大きな仕様変更が行われました。そのため運用開始は少なくとも半年は遅れることになりそうです。

リブラの発行はFacebookが自ら行うのではなく、スイスのジュネーブに設立されたリブラ協会が行います。リブラ協会は、Facebookの子会社のカリブラ、uberなどインターネットサービス企業、フィンテック企業、仮想通貨取引所、香港やシンガポールなどの投資会社のほか、複数の人道支援組織もメンバーとなっています。メンバーの数は2020年5月時点で27です。日本企業は1社もメンバーになっていないようです。

リブラを使いたい人は、認定再販業者に現金を払い、リブラを入手します。

リブラ協会はその全額で短期の国債や銀行預金など信用力が高く、いつでも換金できる金融資産で運用します。運用で得た利益はリブラ協会メンバーに出資金額に応じて配分されます。

リブラを手に入れた人は、リブラが使える店で買い物をしたり、他の利用者とリブラを交換したり、また、現金に戻したい場合は認定再販業者でいつでも換金することができます。

リブラはビットコインなどの仮想通貨とどこが違うのでしょうか。

まずは管理体制が大きく異なり、ビットコインには統一的な管理組織はありませんが、リブラはリブラ協会が中央集権的に管理・運営を行います。

取引データの認証・記録の技術であるブロックチェーンについては、ビットコインは誰でも参加できるパブリック型ですが、リブラではリブラ協会のメンバーなどに参加者が限られるコンソーシアム型となる予定です。

それから、規模が全然違います。ビットコインの口座数は4千万程度ですが、リブラを開発するfacebookは世界最大のプラットフォームであり、その利用者数は25億人を超え、桁がふたつも違います。

両者の最大の違いは値動きです。ビットコインは資産の裏付けなく発行されており、値段はビットコインの需要と供給で決まるので非常に不安定です。リブラは米ドル、ユーロ、日本円、ポンド、シンガポールドルの資産を裏付けとして発行され、値動きはそれぞれの通貨、またはそれら通貨のバスケットに連動するので、安定したものになります。

ビットコインは値動きが激しいので投機の対象としては魅力的ですが、通常の商取引で使用すると、代金をビットコインで受け取ってから現金に換金するまでに価値が大きく減ってしまうようなことが起きるので、非常に使いにくいと言えます。リブラの価値は安定しているので、投資対象としては魅力がありませんが、支払い手段としては使いやすいでしょう。

Facebookは、リブラによってフィナンシャル・インクルージョンに貢献するという社会的意義をことさら強調しています。世界には銀行口座を持たない人が17億人もいるといわれます。しかし銀行口座を持たない人でも、いまやスマートフォンは持っていることが多いので、リブラにより、そのような人たちに現金以外の便利な支払い手段を提供する、というのです。

また、新興国から先進国へ出稼ぎに出ている労働者は平均で7%もの手数料を支払って本国へ送金しているといわれますが、リブラを使えば送金にかかる費用がはほぼゼロとなるので、とりわけ貧困層のコストを削減することができる、としています。

リブラ協会に複数の人道支援組織がメンバーとなっているのは、リブラの大きな目的のひとつが貧困層の生活向上だからです。


2. 各国金融当局から吹く猛烈な逆風

Facebookがリブラ計画を発表するやいなや、世界中の金融当局や議会から強い反発がありました。

その理由の第一は、各国の通貨主権が脅かされるということです。国家は自国通貨を発行することでいつでもいくらでも財政支出をすることができますし、通貨の流通量を変えることで景気の状態を調整することなどができます。しかしもし自国内でリブラが普及することになれば、国家はそのような強力な能力を手放すことになります。

第二に、マネーロンダリングに使用されるのではないかという懸念です。各国金融当局は、利用者の本人確認がしっかりなされるのかどうか、本人確認をするならどのような方法で行うかという点に神経を尖らせています。

第三に、各国の既存の制度と整合性をとれるか、という点です。例えば、リブラを入手したときと使用したときとで価格が異なればキャピタルゲインやロスが発生することになりますが、税務当局がそれをどうやって把握し、どうやって課税するか、という問題があります。

それから、セキュリティー上の不安です。Facebookは過去に情報流出事件を起こしており、もしリブラでセキュリティ上の問題が発生すれば自国民が損害を受けることになる、という懸念があるのです。

2019年秋、リブラ協会の当初メンバーから、VISA、マスター、ebay、paypal、stripeといった企業が脱退しました。これらの企業は多数の利用者を有し、リブラを普及させるうえで非常に重要な役割を果たすはずだったのですが、リブラに対する各国金融当局等からの逆風があまりに強く、当初計画どおりにリブラが実現することはないと判断し脱退を決めたものと考えられます。


3. リブラ2.0

こうした事態を打開するために、2020年4月リブラ、リブラの仕様に大きな変更が加えられました。

当初、リブラは複数の先進国通貨のバスケットに裏付けられた単一のステーブルコインとされていましたが、個別通貨建のデジタル通貨が発行されることになりました。つまり、ドル・リブラ、ユーロ・リブラなど複数種類のデジタル通貨が発行されることになります。通貨バスケット型リブラも残りますが、個別通貨建のリブラを裏付けとして発行されることになります。

個別通貨建リブラが発行されている国の利用者は各通貨を払い込んで個別通貨建リブラを取得しますが、払い込まれたおカネは全額その通貨建で準備資産として留保されます。つまり、その通貨を個別通貨建リブラで置き換えただけということになり、PayPayやLinePayなどと実質的に変わらなくなるので、金融当局は通貨主権を奪われるとか、金融政策が働くなるなどという心配をする必要がなくなります。

仕様変更の第2点は、当初の計画では、5年後に取引の承認作業に誰でも参加できるパブリック型のブロックチェーンに移行するとしていましたが、それを断念し、リブラ協会のメンバー等に限定されるコンソーシアム型ブロックチェーンを採用し続けることになりました。これは各金融当局がセキュリティへの強い不安を示したことへの対応です。

また、マネーロンダリングなどへの対処として、個人の残高や取引に制限をかけることなどが盛り込まれました。

当初のリブラはどこの政府の規制も受けない新しい世界通貨を作るという壮大な計画でした。しかし、仕様変更の結果、革命的な意味合いは剥げ落ちてしまい、海外送金や外国での使用にも便利なPayPayといったところになってしまった感は否めません。


4. デジタル通貨覇権戦争

リブラの当初の勢いは衰えてしまいましたが、2019年6月に発表されたリブラの革新性は世界中に衝撃を与え、各国の中央銀行が発行するデジタル通貨、CBDCの開発を加速させることとなりました。

各国の開発状況は、ウルグアイ、バハマ、スウェーデンでCBDC利用の実証実験が行われ、シンガポールやタイなどではCBDCによる中央銀行間の決済の実験が行われています。中国やカンボジアでは本年中にもCBDCの正式運用が始まるのではないかと見られています。

中国がデジタル人民元の導入を急ぐ理由のひとつは、中国には銀行口座をもたない人が2億人以上いるといわれ、リブラと同様、銀行口座を持たないひとたちに電子決済の仕組みを提供するということでしょう。

また、腐敗の撲滅を目指す中国にとって、人民元のデジタル化は脱税や金融犯罪を抑止するのに役立つだろうということも挙げられます。

そしてもうひとつの理由は人民元の国際化です。国際貿易の多くはドルで決済されていますが、それはニューヨークにある銀行口座を経由しています。このため世界の国々はアメリカの国内法の遵守を強いられ、アメリカの意向に沿わないことをすれば銀行口座を止められてしまうので、常にアメリカの顔色をみていなければならなくなっています。人民元がデジタル化されれば決済が大いに簡単になるので、国際貿易で人民元が使われる場面が増えるでしょう。人民元の国際化が進めば、ドルの基軸通貨としての地位と、それを背景としたアメリカの覇権に風穴を開けることができる、中国にはそういう狙いもあるのではないかと考えらます。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 


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