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一帯一路〜コーヒーブレイクしながらわかる

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一帯一路ってなに?

「一帯一路」の正式名称を直訳すると「絹の経済ベルトと21世紀の海上絹の道」となります。

絹の道というのは、もちろん、2世紀から18世紀にかけて東洋と西洋をつないだ交易路であるシルクロードのことで、中国の唐の人、三蔵法師こと玄奘もこの道を使ってインドへ旅しました。このオレンジの線は三蔵法師が旅をしたルートです。

シルクロードには海を使ったルートもあり、中国の明の宦官で武将の鄭和は、7度にわたり、海のシルクロードに沿って、遠くアフリカまで航海しました。

この陸と海のシルクロードを現在に蘇らせようというのが一帯一路構想です。図は中国が公表した一帯一路のイメージ図ですが三蔵や鄭和が旅したルートとかなり重なっているのがわかります。

一帯一路はもともと2013年に中国の習近平国家首席が提唱し、現在も推進中の国際的な経済連携構想です。その後地球規模での広がりを見せており、2020年1月までに138の国と30の国際組織が一帯一路に協力する旨の文書に署名しています。日本やアメリカ、オーストラリア、インド、ブラジルなど主要国は中国の勢力拡張を警戒して協力に消極的ですが、2019年3月にG7諸国で初めてイタリアが覚書に調印し、話題となりました。

一帯一路のうちの「一帯」は陸上の経済的連携のことで、鉄道・道路網の整備、物流システムの構築、パイプラインの建設、通信インフラの整備などが行われます。

「一帯」は主要な6本の回廊から形成されています。1本目は「新ユーラシア・ランドブリッジ経済回廊」と呼ばれ、鉄道で、中国沿海部や重慶などから新疆ウイグル自治区を通り、アラシャンコウまたはホルゴスからカザフスタンに接続し、ロシアを経由してドイツのデュイスブルクや欧州各地へとつながります。このルートの直通貨物列車は2011年に運行を開始したのですが、一帯一路構想が打ち出された2013年ころから急増し、2018年の運行本数は年間6300本となりました。2011年の運行本数は年17本だったので、1年間の運行本数が1日で運行されるようになった計算になります。この急拡大の背景には、コストが飛行機の4分の1程度で、所用日数は、船の約2ヶ月に対し、約2週間で済むという優位性があります。

2本目は「中国モンゴル・ロシア経済回廊」です。鉄道で中国沿海部から中国東北部かモンゴルを経て、バイカル湖のそばを通り、シベリア鉄道に乗り入れてヨーロッパへ向かうルートです。

3本目は「中国・中央・西アジア経済回廊」で、第一のルートからカザフスタン付近で枝分かれして、カスピ海の南側を経てトルコのイスタンブールを結びます。ただしこのルートは、シリアの内戦地域など政情不安の地域の周辺を通るので開発には困難が伴いそうです。

4本目は「中国・インドシナ半島経済回廊」で、中国から東南アジアを縦断してシンガポール近くまで南下します。また、途中で枝分かれしてベトナムも結んでいます。

5本目は「中国・パキスタン経済回廊」です。中国の新疆ウイグル自治区のカシュガルからパキスタンのグワダル港を結びます。道路・鉄道網の建設、電力インフラの整備、グワダル港とその周辺の開発などのプロジェクトが計画されています。

そして6本目は「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊」です。第4のルートから枝分かれして、バングラデシュとインド、ミャンマーを結んでいます。すでに中国の雲南省からミャンマーのチャオピュー港をつなぐガスと原油のパイプラインが開通しており、高速道路や鉄道の建設も進行しています。

「一路」は、海のシルクロードのことですが、海上は船で自由に移動できるので、陸と同じように国と国とを線でつなぐインフラの整備を行うわけではありません。だいじなのは港の建設・整備であり、中国は、中国企業が株式の過半数を取得するなどして、スリランカのハンバントタ港やオーストラリアのダーウィン港の99年間の運営権を取得したり、アラブ首長国連邦のハリファ港の埠頭の35年間の利用権を取得したり、ギリシャのピレウス港の運営権を取得したりしています。また、ミャンマーのチャオピュー港やパキスタンのグワダル港の整備に巨額の援助を行ったり、バングラデシュと 大規模インフラ整備プロジェクトで協力することで合意したりしています。

これらの港のいくつかは陸の6本の回廊に接続しており、例えば、有事でマラッカ海峡や南シナ海の航行ができなくなったときでも、中東の原油やアフリカの物資などをミャンマーやパキスタンを経由して中国に運べるようになります。つまり陸のシルクロード「一帯」と海のシルクロード「一路」はそれぞれ別のものではなく、中国を中心とした、地球の東半球を面的、網羅的にカバーするインフラ整備計画なのです。

一帯一路の構想が急拡大している背景には、アジアの国々のインフラ整備に対する需要が非常に大きいことがあります。グラフは世界各地のインフラ需要と供給能力を示したものですが、南アジア、中南米、東アジアの需要が大きく、中国の供給能力が非常に大きいことがわかります。一帯一路により、資金が欲しいほうと出したいほうとがマッチされるのです。

その資金の流れをつくる方法として、ふたつの機関が設置されています。ひとつは、中国の主導で2015年に設立された、アジア太平洋地域のインフラ整備の支援を目的とする国際金融機関、アジアインフラ投資銀行です。もうひとつは、2014年に設立された、アジアのインフラ整備などに投資を行う中国の国有投資ファンド、シルクロード基金です。


中国が一帯一路を推進する理由

中国が一帯一路の構想を推進する理由の第一は、中国で生産した製品をヨーロッパなどに輸出したり、原材料や天然資源、食料などをアフリカや中東、カザフスタンなどから輸入するための効率的で確実な物流網を構築するということです。

第二に、中国国内の余剰生産のはけ口にする、という観点です。中国では、2008年8月に北京オリンピックが開催され、それに向けて景気が拡大し、設備投資が積極的に行われました。北京オリンピック閉幕直後にはリーマンショックが発生し、中国は巨額の資金を投じて景気刺激策を打ち、高速鉄道や高速道路網の整備といったインフラ投資などを強力に推し進めました。これらの結果、鉄鋼やセメントなど産業資材の生産設備の過剰が2011年頃から顕在化します。この過剰な生産能力により生み出された過剰な供給を海外のインフラ投資に向けようというのが中国が一帯一路を推し進める理由のひとつと考えられます。

中国の内陸部の開発も一帯一路の目的の一つと言うことができます。中国の急速な経済発展は沿海部に偏り、内陸部との経済格差が大きな問題となりました。そこで、内陸部の経済を発展させるために、2000年に「西部大開発」が開始され、西部で発電された電力を沿海部へ送電する「西電東送」、天然ガスのパイプラインを建設する「西気東輸」、辺境貿易の促進などのプロジェクトが進められました。一帯一路の構想はこの西部大開発の延長上にあります。新ユーラシア・ランドブリッジ経済回廊上の国境の町、ホルゴスには経済特区が建設され、西の深圳になるとの声もあります。中国・パキスタン経済回廊の中国側の拠点であるカシュガルは、中国西部の物流センターとなることが期待されています。

その他にも、中国の安全保障の観点もあるとも考えられ、またアジア地域での政治的プレゼンスを高めるためとの見方もあるのですが、それらについては次の章で考えてみたいと思います。


一帯一路の心配される点

習近平国家主席が一帯一路の構想を打ち出してから7年となり、構想の問題点もしくは懸念点も明らかになってきています。

まず、「債務のわな」と呼ばれる問題です。

スリランカは、中国から巨額の融資を受けてハンバントタに港湾を建設しましたが、場所が不便であることなどから港湾使用料が伸びず、借金の返済に窮する事態に陥りました。そのため、借金を棒引きにするかわりに港の運営権を99年間にわたって中国に譲り渡す契約を結びました。

マレーシア、パキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、モルディブ、ジプチ、エチオピアといった国々でも中国からの過剰な借り入れが経済を圧迫するなどの問題が起きています。

中国は、一帯一路構想に基づき途上国に身の丈に合わないインフラ投資をさせて、政治的影響力の下に置く「借金漬け外交」を行なっているとの警戒感が、それら債務国の国民や、欧米諸国で高まっています。

中国の主導で整備された港は軍事利用され、中国のインド洋での軍事的なプレゼンスが高まるのではないかとの懸念もあります。

中国が港の運営権を持つスリランカのハンバントタ港には、中国海軍の艦船が寄港することもある模様です。もし中国が、パキスタンのグワダル港やアラブ首長国連邦のハリファ港を海軍の軍事拠点として使用するようになると、石油など重要資源の通り道であるペルシャ湾の出入りが中国によってコントロールされるようになります。

中国が整備している港を海上の線で結んでみると、インドを包囲するようにぶら下がる真珠の首飾りのように見え、インドや欧米の安全保障関係者は、中国がインド洋での影響力を着々と高めているとの警戒感を強めています。

それから、デジタル・シルクロードへの警戒です。

習近平主席は、2017年に開催された第1回一帯一路国際協力フォーラムにおいて、一帯一路で実施されるインフラ整備には、鉄道、道路、海運、航空、パイプラインに並べて情報網が含まれることを明示しました。

長引く米中貿易戦争は、デジタル分野での覇権争いという側面もありますが、中国が、巨大な人口を有するアジアやアフリカでデジタル・インフラの構築を進めれば、中国のデジタル覇権につながるとの懸念があります。また、5G基地局を中国が支配すると、安全保障上の観点から問題があるとする声や、スマートシティの構築は監視社会の輸出であるとする声もあります。中国が開発を進めているデジタル人民元は、一帯一路の構成国の貿易や投資の決済手段として使われることになると考えられますが、フェイスブックのザッカーバーグ氏は、「中国はデジタル人民元をアジア・アフリカでの影響力拡大に使おうとしている」と指摘しています。


日本と一帯一路

中国政府によれば、2020年1月時点で138の国が一帯一路に関する覚書を締結していますが、日本は未だ締結していません。また、一帯一路を資金面で支えるアジアインフラ投資銀行には、2020年9月時点で102の国と地域が参加していますが、日本はこれにも加盟していません。

一帯一路に署名していなくてもアジアインフラ投資銀行には、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、インド、ブラジルなどが参加しており、G7諸国で参加していないのは日本とアメリカだけです。日本はアメリカと並んで一帯一路から最も距離をとっている国のひとつ、と言えます。

安倍前首相は、アジアとアフリカの二つの大陸とインド洋と太平洋の二つの大洋を一体的に捉える「インド太平洋」構想を提唱し、アメリカ、インド、オーストラリアもこれに賛同しました。インド太平洋構想は、中国に南と東から圧力を加えるような形となっており、経済的・軍事的にプレゼンスを増す中国および中国を中心とする国際連携である一帯一路への対抗という意味合いが強いと言っていいでしょう。

日本が一帯一路から距離を置くひとつの理由はアメリカへの配慮と考えられます。一帯一路には前の章でみたような懸念点があり、特にアメリカが強く警戒しています。アメリカに安全保障を託している日本としては、アメリカに忖度し、歩調を合わせざるを得ない、といったところでしょう。

しかしながら、一帯一路は、少なくとも表向きは、経済面での協力により中国と周辺諸国がともに発展することを目指すものであり、日本としても、あからさまにこれに反対するわけにもいきません。また今後、アジアやアフリカでの大規模インフラプロジェクトに日本企業が参加する機会を失うようなケースが増えるかもしれません。このため日本は一帯一路に歩み寄りつつあります。安倍前首相は2016年にインド太平洋構想をさらに一歩進める「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出しましたが、翌年には、自由で開かれたインド太平洋と一帯一路は連携・融合できる旨の発言をし、一帯一路に協力し、公正さが保たれるなどの条件下でアジアインフラ投資銀行への参加を検討する姿勢を示しました。2018年の日中首脳会談では第三国のインフラ整備での協力のためのフォーラム設立が約束され、10月の安倍総理訪中時には、日中の民間企業等により52件の協力文書が交わされました。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 


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