スタグフレーション〜コーヒーブレイクしながらわかる
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原油価格高騰は脱炭素化のせい?
まず最初に、新型コロナウイルス感染症流行前後からの原油価格の推移を見ておきましょう。
2020年の年初に1バレル60ドルを超えていた原油価格は、新型コロナの流行の影響を受けて下落し、2月末には50ドルを下回りました。 そして、石油輸出国機構と、ロシア、メキシコなどで構成されるOPECプラスの3月の会合で、協調減産が決裂したことなどから、原油価格は1バレル20ドル程度にまで暴落しました。
しかし、翌4月には、以前の1日210万バレルの減産を大きく上回る、1日970万バレルの減産が合意されたことなどから原油価格は急上昇し、6月には1バレル40ドル程度にまで回復しました。その後2020年の年末にかけて1バレル40ドル前後の状況が続きますが、2021年になってからは上昇傾向となり、6月には新型コロナ流行前の水準を上回り、10月末には1バレル85ドルをつけるに至りました。
この状態は、歴史的にみるとどうかというと、グラフは、物価変動分を加味した1945年以降の原油価格の推移ですが、1バレル85ドルというのは、1980年代の第二次オイルショックや、2010年前後の、中東の情勢不安や中国経済の急拡大等による価格高騰期以来の高い水準ということになります。
昨今、原油価格を押し上げている要因はいくつかありますが、まずは、コロナ禍からの景気回復に伴う石油の需要の増加です。
それから、脱炭素化の流れのなかで、火力発電の燃料として、石炭より二酸化炭素の排出量が少ない天然ガスへのシフトが進み、天然ガスの価格が高騰したため、天然ガスを代替する石油への需要が高まったことです。
グラフは天然ガスの価格の推移です。2021年に入ってから価格は上昇基調にあり、特に、天然ガスの取引量が多いヨーロッパでは、去年の同じ時期の10倍以上となっています。
供給面では、需要の増加にOPECプラスの供給増加のペースが追いついていないことです。OPECプラスは段階的に減産幅を縮小しており、今年8月からは毎月、1日当たり40万バレル減産幅を縮小してきていますが、これは原油価格を低下させるには不十分で、日本やアメリカ、インドはさらなる増産を働きかけていましたが、OPECプラスは11月4日の会合で、追加増産の見送りを決めました。
それから、アメリカでの生産が伸びてこないことです。アメリカはシェールオイルの生産により2010年代より原油生産を大きく伸ばし、世界一の原油生産国となりました。シェールオイルは生産コストが高いため、1バレルが50ドルを下回るような状況では採算が合わないと言われ、ということは、1バレルが80ドルを超えるような現状では、逆にシェールオイルの生産は伸びてきそうなものです。しかし実際には、バイデン政権下での脱炭素化の流れのなかで、シェールオイルへの投資が抑制されており、そのためアメリカの原油生産は伸び悩んでいます。
今後原油価格はどうなる?
今後、原油価格はどうなるのでしょうか。
前の章で見た、原油価格の高騰の要因それぞれについてみてみると、コロナ禍からの回復に伴う石油の需要の増加という点については、今後も、飛行機や自動車での移動が増えていくことが予想され、石油に対する需要は、一層増えると考えられます。
また、気象庁は、ペルー沖の海面水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象」が発生していると発表しており、ラニーニャの発生する年の冬は寒さが厳しくなる傾向があることから、今年の冬は厳冬となりそうです。このため燃料としての石油需要も高まりそうです。
供給面では、11月4日にアメリカや日本の追加増産要望を拒絶したOPECプラスが、今後すぐに供給量を大きく増やすことはなさそうです。
アメリカの増産については、バイデン政権が続く限り、アメリカの脱炭素化の流れは止まらないと考えられるので、シェールオイルの大幅増産はほぼありえないでしょう。
報道によると、バイデン政権は戦略石油備蓄の放出を検討しているとのことで、また、日本や中国にも石油備蓄の放出を要請したとのことです。ただ、備蓄されている石油の量は、アメリカは輸入量の100日分程度、日本は200日分程度なので、長期的に価格を抑えるのは困難ですし、そもそも、有事のために備蓄しているのですから、価格安定のためにはごく一部しか放出できないと考えられますので、石油備蓄放出による価格抑制効果は限られたものになるでしょう。
以上から、原油価格は、今後も高止まりするのではないかと思われます。
原油価格高騰の日本経済への影響は?
では、原油価格が1バレル80ドル台が続くとした場合、日本経済にはどのような影響があるでしょうか。
原油価格が上昇すると、半年ほど遅れて消費者物価が上昇する傾向があります。どのくらいの物価押し上げ効果があるかというと、第一生命経済研究所の永浜利広氏が2006年以降の原油価格と消費者物価を使って行った計量分析によれば、10%の原油価格の上昇は、消費者物価を0.0126%押し上げるとのことです。この数字を使えば、2020年後半の原油価格は1バレル45ドル前後だったので、1バレル80ドル台というのは、約80%増なので、消費者物価を1%程度押し上げる、ということになります。
1%の物価上昇というのは、かなり大きいと言うことができます。ただ、2020年後半の消費者物価は前年比0.5%から1%のマイナスでしたので、それに1%を足してもゼロから+0.5%ということになり、直近に発表された消費者物価上昇率と大差がない、ということになります。よって、物価の上昇という観点だけから考えた場合、原油価格の高騰の日本経済に与える悪影響は大きくはないということができます。
しかし、原油を輸入に頼る日本は、原油価格の高騰は、日本から産油国へと所得が流出することにより、経済に小さくない影響を受けます。
内閣府の2018年の「短期日本経済マクロ計量モデル」によると、原油価格が20%上昇すると、輸入金額の増加によって、経常収支の名目GDPに対する比率は、1年目に0.62ポイント赤字が拡大し、実質GDPは、家計の可処分所得減少の効果もあって、0.08%減少します。
単純に計算すると、1バレル80ドル台が続いた場合、1年目に、およそ13兆円の所得が産油国へ流出し、実質GDPは0.33%押し下げられることになります。同じく短期日本経済マクロ計量モデルによると、消費税を1%ポイント引き上げた場合に実質GDPは0.28%下がるとのことなので、1バレル80ドル台が続いた場合のGDP押し下げ効果は、消費税が1.2%ほど引き上げられた場合と同じくらいの経済へのインパクトがある、ということができます。
Some clues...
省略(動画本編でご覧ください)