日経225オプション【中編】オプション投資戦術〜コーヒーブレイクしながらわかる
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3. プット・コールの売りと買い それぞれの特徴
前回、お話ししたとおり、オプション取引にはヨンとおりがあり、オプションを使った資金運用では通常それらを組み合わせて投資を行うのですが、まずはそれぞれの取引方法を単独で行う場合についてそのメリットやデメリット、投資のタイミングなどについてみていきましょう。
まずはプットオプションの買いについてみてみましょう。グラフは権利行使価格23000円のプットを、価格が50円で買った場合の、満期日の損益線です。そしてこれに、オプション購入時点での損益曲線を重ねるとこうなります。
原資産を持っている時にプットを買えば、少額の保険料を支払って保険をかけるようなものなので、機関投資家などにも、保有する日本株式の価格下落リスクに備えるためによく利用されます。
前回説明した4つのギリシャ文字の指標のうちのデルタはマイナス、つまり現物資産価格が下がればオプション価格が上がるので、相場の下落を予想する時に、積極的に利益を狙ってプットを買うこともできますが、シータがマイナス、つまり時間の経過とともに価格が下がるので、タイムディケイ、時間的価値の減少に気をつけなければなりません。プットのタイムディケイはコールに比べて大きいので、特に注意が必要です。
よって積極的に利益を狙って購入した場合は、利益が出るのをじっくり待つのではなく早めに決済するのがいいでしょう。また、満期日近くには時間的価値が一気に減る傾向があるので、満期日のイチニ週間前までにはポジションを閉じたほうがいいでしょう。
次にコールの買いです。デルタがプラス、つまり原資産の価格上昇によりオプション価格が上昇するので、ポートフォリオをヘッジするという機能はなく、積極的に利益を狙っての購入が中心となります。プットと同様タイムディケイに気をつける必要があり、早めの売却と、満期直前までポジションを持ち越さないことに注意すべきでしょう。ただし、コールはプットに比べればシータのマイナス幅が小さいので、買いやすいとも言えます。
プットの売りは、オプションが時間の経過とともに価値を減らしていく性質を利用し利益を得る取引です。原資産の価格から遠く離れた、インザマネーとなることがない権利行使価格のオプションを新規に建て、満期まで保有し続けるのが基本です。プットは、多少高くても保険として購入する人がいることなどからコールに比べて価格が高めであることもあり、ヨンとおりの取引方法のなかで最も期待値が大きい取引方法と言えるでしょう。しかし同時に、最も危険な取引方法でもあります。
2月26日の日経225の終値は22426円でした。利酢九好男くんは、残存1ヶ月で、今の価格より2000円以上下である権利行使価格20250円のプットを150円で二枚売って、これから1ヶ月、何もしないで30万円の利益を得られる、とほくそ笑みました。
ところがその後日経225は急落。3月17日には17000円をも下回りました。好男くんはやむなく二枚のプットを3650円で買い戻し、700万円の損を出してしまいました。好男くんは1ヶ月以内に日経225が2000円以上も下落することは絶対にないと考えてプットを売ったのですが、短い期間内に10%以上変動することは決して珍しいことではありません。
2000年以降で日経225の月間の高値と安値の差が高値の10%以上あった月は66回もありました。およそ4ヶ月に1ヶ月の割合です。特にプットの売りは、株式市場は上昇する時はゆっくりでも下落する時は一気に落ちる傾向があるので、危険と言え、安定的な資産運用を目指すならばプットを単独で売るのは考えものです。
ただし、暴落の最終段階でインプライド・ボラティリティが100%を超える異常値をつけることがあります。そのようなプットの売りは利益が出る可能性が高いので、例外的に売ってみてもいいかもしれません。
コールの売りも、オプションの時間的価値の減少を取りにいく取引で、相場が大きく動き、インプライド・ボラティリティが大きい時などに仕掛けて、満期まで持ち続けるのが基本的な方法です。オプションの売りなので損失が無限に広がる可能性がありますが、同額かそれ以上の原資産を保有しているのであれば、原資産の値上がりでオプションの損は相殺されるので、自分の資産が減少することはないという意味ではリスクの少ない投資方法と言えます。
ゆえに、ある程度東証一部上場銘柄を持っていて、日経225が特定の金額まで上がれば十分だと思っているような場合に、その金額が権利行使価格のプットを売るというのはひとつの方法でしょう。
4. オプション投資戦術
第3章ではコールまたはプットを単独で売ったり買ったりする場合についてお話しましたが、通常オプションを使った資産運用では、複数のオプションを組み合わせてリスクをおさえつつリターンを大きくすることを目指します。この章では代表的なオプション投資戦術をご紹介します。
まずはクレジット・スプレッドです。クレジットスプレッドではアット・ザ・マネーに近いオプションを売り、同時に遠いオプションを買います。
プットオプションで組んだクレジット・スプレッドの、満期時の損益線はこのようになります。この例では、日経225が動かないか上昇した場合5万円の利益で、20500円を下回ると45万円の損になります。
オプションの売りは損失が無限に広がる可能性があることが大きなリスクでしたが、アット・ザ・マネーから遠いオプションを一緒に買うことにより、最大利益の金額を減らす一方で、損失を一定額に限定するのがクレジット・スプレッドです。
オプションの売りは損失が無限に広がる可能性があることが大きなリスクでしたが、アット・ザ・マネーから遠いオプションを一緒に買うことにより、最大利益の金額を減らす一方で、損失を一定額に限定するのがクレジット・スプレッドです。
クレジット・スプレッドの売りを買いにし、買いを売りにするとデビット・スプレッドになります。
デビット・スプレッドの満期時の損益線です。もしポジションを満期まで持ち続け、日経225が20500円を下回れば利益は45万円です。しかし相場が動かなかった場合は5万円の損となります。ちなみにデビットの意味は、満期まで持ち続けたら支払いになるという意味で、先ほどのクレジットは、逆に受け取りになるという意味です。
相場が大きく動くと予想しているときなどに、オプションを買いつつ、合わせてアウト・オブ・ザ・マネーのオプションを売ることで、オプション購入代金の一部を節約する戦略です。
ショート・ストラドルは、同じ権利行使価格のプットとショートを同時に売る戦略です。
黄色い線がポジションを建てた時、黄色い点線は10日後、緑の線が満期時の損益曲線です。
もしも満期時の日経225がぴったり権利行使価格と同じになれば非常に大きな利益を得られます。しかし相場が大きく動くと損失も非常に大きくなり、過去にはこの戦略での失敗が原因で銀行が破綻したこともありました。仕掛けるのは今後相場が動かないと予想される時ですが、リスクが非常に大きいので、安定的な資産運用を目指すのなら、採るべきではない戦略と言えます。
ショート・ストラドルの売りを買いに変えるとロング・ストラドルになります。仕掛けるのはショート・ストラドルの逆の、相場が上か下へ大きく変動しそうな時で、予想どおりとなれば非常に大きな利益を得られますが、相場が動かない場合、セータのマイナスが大きい、つまり、時間価値がどんどん減少して損が膨らみますので、早めにポジションを閉じる必要があります。
ショート・ストラドルでは同じ行使価格のプットとロングを売り建てますが、ショートストラングルではプットの行使価格とコールの行使価格を離して売ります。これにより最大利益は減りますが、損益がプラスとなる満期時の原資産の価格の範囲が多少広がります。ショート・ストラドルと同様、相場が大きく変動すると大きな損失となるので、安定運用を目指すのなら避けたほうがいい戦略です。
ショート・ストラングルの売りを買いに変えるとロング・ストラングルです。ロング・ストラドルより最大損失は小さくなりますが、損益がマイナスとなる満期時の原資産の価格の範囲が少し広がります。
ロング・バタフライは、オプションを2枚売って、それより権利行使価格が高いオプションと安いオプションを1枚ずつ買う戦略です。
ショート・ストラドルもショート・ストラングルも損失が無限に拡大する可能性があることが大きな欠点ですが、その欠点を回避するのがロング・バタフライです。ショート・ストラドルより最大利益が小さくなりますが、損失は限定されます。仕掛けるのは、相場の膠着を予想しており、予想が外れた時の損失を限定したい時です。
ロング・バタフライの売りと買いをひっくり返すとショート・バタフライです。
ロング・ストラドルほどシータのマイナス幅は大きくないので、やや長く相場の変動を待つことができます。また、ロング・ストラドルより損益がマイナスになる原資産価格の範囲が狭いのですが、予想どおりに相場が動いた時の利益額は限定されます。
ロング・バタフライで売り建てる2枚のオプションの権利行使価格を離すとロング・コンドルになります。ロング・バタフライに比べて利益の最大額は小さくなりますが、損益がプラスになる可能性は高くなります。なお、権利行使価格の異なる4種類のオプションを同時に売買するのは大変なので、ふたつのクレジット・スプレッドを別々に作り、その結果ロング・コンドルの形になると考えたほうがいいかもしれません。
ロング・コンドルの買いを売りに、売りを買いに変えるとショート・コンドルです。ロング・コンドルと同じく、4種類のオプションをほぼ同時に約定させるのは難しいので、2種類のデビット・スプレッドを別々につくってショート・コンドルの形にするのがいいでしょう。
アット・ザ・マネーに近いオプションを買い、同時にアウト・オブ・ザ・マネー側のオプションを、買いより多く売るのがレシオ・スプレッドです。
この損益線が示す通り、売り玉の、権利行使価格と満期時の原資産価格が同じになれば大きな利益を得られます。また、クレジットの状態、つまり、売った金額の合計が買った金額より多ければ、高い確率で損益がプラスになります。買い玉より売り玉の方が多いので損失が無限に広がる可能性がある点には注意が必要です。ただし、この点は後編で詳しくお話ししますが、デルタの絶対値が小さいので、ロスカットは比較的しやすいと言えるでしょう。
バック・スプレッドは、アット・ザ・マネー側を売り、アウト・オブ・ザ・マネー側を多数買う戦略です。
売りより買いの建玉の方が多いので、vegaが大きい、つまりボラティリティが上がると大きく利益が出るポジションです。暴落時にボラティリティが急上昇することがありますが、そのような時に爆発的に利益を生み出す可能性があります。しかし、ポジションを満期まで保有し、もしSQが買い建玉の権利行使価格近くで決まると大きな損失がでます。
カレンダー・スプレッドは、期近、すなわち満期日が近いオプションを売って、期先、すなわち満期日が遠いオプションを買う戦略です。通常期先の権利行使価格を期近のものと同じとするか、250円か500円程度アウト・オブ・ザ・マネー側にセットします。
オプションの時間的価値は満期日から遠いとゆっくりと、満期日近くになると一気に減少する傾向にあり、そこで満期日から遠くを買い、近くを売って利益を狙うのがカレンダー・スプレッドです。
原則としてデルタはプットでポジションを組むとマイナス、つまり原資産が下がれば利益が出て、コールで組むとプラスになります。ベガはプラス、つまりボラティリティが上がれば利益となり、シータはプラス、つまり時間経過とともに利益が増えます。ただし、期近と期先でボラティリティの変動の仕方が異なることや、期近の満期直前では価格変動が小さくなることなどから、この原則どおりとならないことも少なくありません。
今回は、オプションのプットの買いと売り、コールの買いと売りそれぞれの特徴と、それらを組み合わせた投資戦術についてお話ししました。実際のオプション投資では、これらの投資戦術の複数を同時に行い、さらに先物取引も活用します。そしてさらに、現物株のポートフォリオをも組み合わせて、全体としてリスクを抑えてリターンを増やす投資戦略を建てるのですが、それについては後編でお話ししたいと思います。