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RCEP(地域的な包括的経済連携)〜コーヒーブレイクしながらわかる

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RCEPって何?目的と誕生の経緯

RCEPは、リージョナル・コンプリヘンシブ・エコノミック・パートナーシップの略で、直訳すれば地域的な包括的経済連携、となります。

RCEPは、ASEANの10カ国と、東アジアの日本、中国、韓国、およびオセアニアのオーストラリア、ニュージーランドの計15カ国が参加する自由貿易協定なのですが、そもそもなぜ、自由貿易が必要なのでしょうか。

その理由の第一が比較優位の考え方です。比較優位の理論を簡単に言えば、各国は自国の得意とする物の生産に特化して他の物は他国から買い入れれば、より多くのものを得ることができる、この形で各国が貿易すれば全ての国が得をする、という理論です。

もうひとつの理由は、各国の貿易関係が深まれば平和に、貿易関係が浅くなり分断が深刻になると戦争につながるという考え方です。1929年のニューヨーク市場での株価大暴落をきっかけとした世界大恐慌から脱するために、各国は自国との経済関係が深い国々とブロック経済圏を形成しました。ブロックの外との貿易には高い関税を課すなどしたことから世界貿易は7割も減少したと言われ、広い経済ブロックを持たず苦境に陥った日本などが、アメリカ、イギリス、フランスなど広いブロック経済圏を持つ国に挑んだことが第2次世界大戦の要因のひとつとなりました。

この反省から第二次大戦後に、通貨の安定を目指すIMFや復興資金を提供する世界銀行の設立とともに、自由貿易を支えるGATTが作られました。GATTでは、各国間の関税引き下げを目指して8ラウンドもの多国間交渉が行われ、一定の成果を得て1994年に終了しました。そして1995年に、GATTを引き継いで世界貿易機関・WTOが設立されます。

WTOでは、農業、繊維など特定の物品の貿易についてのルールの強化や、物の貿易自由化に加えてサービス貿易や知的財産権や投資などに活動範囲が拡大されたりしました。

WTOでは2001年よりドーハ・ラウンド開始されました。しかし、当初3年の予定であったにも関わらず、20年が経った現在でも終了していません。WTOは世界の161の国と地域の全会一致が原則で、先進国と途上国との対立により交渉がなかなか順調に進まず、ここ数年はトランプ政権の保護主義政策も加わって、もはや結果の見えない漂流状態に陥っています。

WTOの交渉を待ちきれない各国は、二国間での交渉を進めていきます。関税など貿易の制限を削減する自由貿易協定・FTAや、貿易面だけでなく投資や知的財産の保護、人の移動などの分野も含む経済連携協定・EPAが多数結ばれました。日本はシンガポールと締結したのが最初で、現在までに21の協定を結んでいます。世界では約三百もの協定があります。

ただ、二国間での交渉をいくつもやるのは効率が悪く、また、企業の活動がグローバルになりサプライチェーンが多角的になる中で、例えば貿易相手ごとにFTAの内容が異なれば不便ですし、例えばA国、B国、C国と輸出する時にA国とB国の間、B国とC国の間にFTAがあっても、原産地規則によりB国の製品と認められなくてB国からC国へのFTAが使えないというような問題が生じたりします。そこで、関係の深い地域の国々がまとめて交渉する動きが出てきます。

地域間EPAの例としては、古くはEUの前身の欧州経済共同体があります。北米大陸にはつい先ごろ発効したアメリカ・メキシコ・カナダ協定があり、南米にはアルゼンチン、ブラジルなどが参加するメルコスールがあります。

太平洋沿岸の国々が参加する環太平洋パートナーシップ協定・TPPも地域間のEPAです。TPPは12カ国で交渉が開始されましたが、途中でアメリカが離脱して、11カ国の貿易協定として2018年の年末に発効しました。

アジア地域の中でのEPAの議論の開始は21世紀になってからであり、世界的にみて遅いスタートとなりました。当初は日本と中国が別々の提唱を行って対立し、まとまらなかったのですが、TPPの交渉が開始されたことに焦った中国が歩み寄りをみせ、それを受けてASEANが日中の両構想を踏まえたRCEPの提案を行い、2013年に交渉が開始されました。その後31回の交渉会合と19回の閣僚会合、4回の首脳会議が行われ、2020年11月の第4回首脳会議で署名がなされました。


RCEPって何?その内容は…

RCEPにより日本の物の輸出入などがどう変わるかについて見てみましょう。

まず、日本からの工業製品の輸出については91.5%の品目の関税率がゼロとなります。

相手国別にみるてみると、このようになります。なかでも、RCEPにより初めて自由貿易協定を結ぶことになる中国と韓国向けで無税で輸出できる品目の数の増加が大きく、無税の品目数は中国向けでは8%から86%へ、韓国向けでは19%から92%へ拡大します。

具体的に言うと、中国向けでは、自動車部品の87%の関税が撤廃され、家電や鉄鋼製品の一部の関税率もゼロとなります。韓国向けでは、自動車部品のうちの78%の品目や化学製品の一部の関税が撤廃されます。

ASEANとは既に経済連携協定を結んでいますが、ASEAN向けの輸出についても、既存の経済連携協定の内容に追加して関税の撤廃がなされます。

工業製品の輸入については、化学工業製品や繊維、繊維製品などについて、関税を即時または段階的に撤廃することとなっています。

農林水産品の、日本からの輸出については、中国向けのホタテ貝、韓国向けの板チョコレート、インドネシア向けの牛肉などの関税が撤廃されます。日本への輸入については、日本が重視するコメ、牛肉などは関税削減の対象から除外されました。その結果関税撤廃率は、対ASEAN、オーストラリア、ニュージーランドでは61%、対中国では56%、対韓国では49%と、TPPやEUとの経済連携協定よりもかなり低い水準に抑制されています。

RCEPでは関税率だけでなく、貿易や投資にかかるルールについての各種約束もなされました。

例えば投資の分野では、米中貿易交渉でもとりあげられた、外国からの進出企業に対する技術移転の要求について、禁止される旨が明記されました。

電子商取引分野では、中国ではサイバーセキュリティ法に基づいて、個人情報や重要情報を取り扱う業者は中国国内で集めた情報は中国内に設置したサーバーで保管しなくてはならないとされているのですが、RCEPでは、サーバーの国内設置の義務付けが禁止されます。

これらのルールが遵守されれば、RCEP域内に進出するハイテク企業や、RCEP域内の消費者向けに電子商取引をする業者にとって大きなメリットがあります。ただし、果たしてどの程度守られるのかは未知数です。


RCEPの何がすごいの?

RCEPが注目される理由の第一は、参加国全体で世界の人口、GDP、貿易増額のおよそ3割を占めるという規模の大きさです。グラフは主要な経済協定のGDPを比較したものですが、これをみるとRCEPの規模がいかに大きいかがわかります。米国が抜けてしまったTPPと比べると2倍以上の規模があります。そのうえ、中国やASEANといった高成長の国々が主要メンバーとなっているので、日本EU間の経済連携協定などとの差は今後広がることになるでしょう。

日本にとっては、輸出の43%がRCEP参加国向け、輸入の49%がRCEP参加国からなので、経済的な意義が非常に大きいと言うことができます。

日本にとってとりわけ重要なのは、中国や韓国との初めての経済連携協定であるという点です。日本にとって中国はアメリカに次ぐ第2位の輸出相手国であり、全輸出の19%が中国向けです。輸入相手としては第1位で、全輸入の23%が中国からです。韓国も輸出相手の第3位、輸入相手の第4位の重要な貿易パートナーです。中国や韓国での関税の引き下げによってこれらの国への輸出がずっとしやすくなり、また、日本での関税引き下げによって日これらの国の商品をより安く手に入れることができるようになります。


RCEPの残念な点

日本やアジアの国々に大きな利益をもたらすRCEPですが、残念な点もあります。

まず、インドの参加が得られなかったことです。当初はインドも交渉に参加していましたが、2019年11月以降交渉に参加せず、結局協定に署名しませんでした。インドと中国との関係は、国境地帯で両国の軍が衝突し死者が出るなど険悪で、その中国からの製品が関税引き下げにより国内に出回り生産者を追い詰めたり、中国からの投資が拡大して国内企業を安価に買い進めるのではないかといった懸念が強まっていることがRCEP離脱の理由のようです。

世界2位の人口と世界5位のGDPを有するインドが参加するかどうかで自由貿易圏としての意義は大きく変わりますし、日本としては、中国の独走を抑えるためにもインドの参加を望んでいます。このため共同首脳声明ではRCEPがインドに対して引き続き開かれていることやインドの加入が歓迎されることが宣言され、また、インド以外の国は発効後18ヶ月を経過した後に加入が可能となるのですが、インドはその例外であることが付帯文書に明記されました。

第二に、自由化の程度がやや低いことです。

RCEPにより日本からの工業製品の輸出の91.5%の品目の関税率がゼロとなりますが、この関税撤廃率は決して高いとは言えません。TPPでも日本EU経済連携協定でも99%以上の輸出品目の関税が撤廃されます。第二章で日本から中国向けの輸出の関税撤廃率は8%から86%へと大きく増加するとしましたが、86%というのは実はぎりぎりで合格と言うべきかなり微妙な数字です。中国以外でも、カンボジア、マレーシア、ベトナム、インドネシア向けの輸出の関税撤廃率は90%に達していません。

また、関税を撤廃するといっても即時ではなく、かなりの年月をかけて段階的に行われるという点にも注意が必要です。例えば中国向けの電気自動車用のリチウム蓄電池の電極等は16年後、同じくモーターの一部は21年後にようやく関税が撤廃されます。

さらに、ルールの分野でも、例えば、TPPでは盛り込まれている、国有企業への優遇措置の規制や、電子商取引の関連で、ソース・コードの移転要求の禁止についての条項は、中国が受け入れられないことから、RCEPでは盛り込まれませんでした。

RCEPは、出航できたことは大いに意義があるけれども、順風満帆とは到底言えない課題の多い船出と言えるでしょう。


Some clues...

省略(動画本編でご覧ください)

 


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