米中貿易戦争

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1. そもそも米中貿易戦争って何

そもそも米中貿易戦争とはなんでしょうか。米中貿易戦争とはアメリカと中国とのあいだの経済関連の摩擦のことですが、「経済摩擦」といわずに「貿易戦争」というのは、おもには両国間のモノの輸出入が論点になっているためであり、戦争と呼ぶのがふさわしいほどに両国間が激しく、影響が広範に及び、かつ理不尽なぶつかり合いをしているからでしょう。ちなみに1980年代に激化した日本とアメリカとの経済対立は日米貿易摩擦と呼ばれていました。

それでは、米中貿易戦争の流れを見ていきましょう。

米中貿易戦争はトランプ大統領の登場によって始まります。

2017年1月に就任したトランプ大統領は翌年3月に中国からの鉄鋼製品の輸入に25%、アルミニウム製品の輸入に10%の上乗せ関税を課しました。


2. 米中貿易戦争の経緯

これに対し中国はアメリカから輸入する果物など128品目に15から25%の関税を報復として課しました。

そして翌2018年7月、いよいよ米中貿易戦争が本格化します。

7月6日、アメリカは818品目340億ドル相当の中国製品に25%の税率で関税を上乗せすることとしました。

一方の中国も黙ってはおらずすぐに約545品目に対し同じ規模の関税を課して対抗しました。

続く8月23日、アメリカは160億ドル相当分に25%の関税を上乗せし、中国も同規模の報復関税を発動しました。

アメリカは「そっちがその気ならさらにやってやる」とばかりに、9月24日に対中関税第3弾として5745品目2000億ドル分に対し10%の上乗せ関税を発動し、これに対しても中国はすぐに報復しますが、アメリカからの輸入が少ない中国は上乗せ関税の対象製品の金額を同額とすることはできず、アメリカより少ない600億ドル相当5207品目に対し5または10%の関税を課しました。

2018年の後半にアメリカは安全保障上問題のある活動をしているとして中国の通信機器大手ファーウェイ社に対する締め付けを強化します。アメリカ政府は自国企業や同盟国に対しファーウェイ製品をしようしないよう要請し、また、アメリカ政府の要請でファーウェイの副会長がカナダで逮捕されるという事件が発生しました。

翌2019年5月、全150ページに及ぶ合意文書案に対し中国側が、それまでの交渉を白紙に戻すかのような全面的修正を求めました。

怒ったアメリカは対中関税第3弾の税率を25%に引き上げます。

中国もこれに対抗し6月に第3弾600億ドルの税率を25%に引き上げました。

そして2019年9月1日、アメリカは1200億ドル分に15%の関税を発動し、また全輸入品のうちの残った1600億ドル分についても12月15日に関税を発動すると表明しました。

これに対し中国は残った750億ドル分に対し2回に分け最大10%の報復関税を課すと表明しました。

意地を張り合い続けているだけにも見える米中両国ですが関税引き上げ合戦の裏では継続して話し合いが続けられてはいて、2019年末にかけて両国間の対立はやわらぐ方向に向かいます。

10月、アメリカは予告していた第1弾から第3弾の上乗せ税率の25から30%への引き上げを見送りました。また12月15日に予定していた1600億ドル分に対する追加関税発動も無期限延長し、さらに9月1日発動の1200億ドル分の上乗せ税率の15から7.5%への引き下げを表明しました。

一方の中国も、予定していた報復関税を中止すると発表し、米中貿易摩擦はやや落ち着いた状態で年を越すことになりました。

そして2020年1月15日、第一段階の合意調印がなされました。合意文書には中国によるアメリカ産農産品の大幅輸入拡大などが盛り込まれました。


3. 米中貿易戦争の背景にあるもの

次に、米中貿易戦争はなぜ発生したのか、その背景にあるものを考えてみましょう。

まずは、トランプ大統領の自国優先の考え方です。

トランプ大統領はアメリカ人の雇用を奪うものとして貿易赤字を悪いものと考え、アメリカの貿易赤字の約半分を占める対中国の赤字は大いに問題だとしたのです。

トランプ大統領がアメリカ・ファースト政策を採る理由は、もちろんそれが票につながるからです。2020年秋には4年ごとの大統領選挙があり、なんとしても再選したいトランプ大統領は国民のために他国と全力で戦う大統領を演じる必要があるのです。


4. 米中貿易戦争の影響

次に、米中貿易戦争の影響についてみてみます。米中貿易戦争が武力衝突に発展することはなさそうですが、経済に与える影響は決して小さくありません。

米中両国民は相手国からの輸入品の関税率が高くなると、それら輸入品の価格が高くなることで明らかな不利益を受けます。

輸出するほうも輸出品が売れなくなるぶん損をします。

不利益の度合いは経済全体に占める相手国への依存度が高い中国のほうがアメリカよりも大きくなります。それがアメリカのほうが強気で中国のほうが妥協気味になっている大きな理由といえるでしょう。

日本など第三国は、米中両国が本来相手国から調達するものを第三国から調達するようになれば利益を得ます。しかし米中両国の景気が悪くなれば、その悪影響が第三国にも及ぶ恐れがあります。

2019年10月、IMFは、米中貿易戦争が悪化した場合、GDPの伸びはアメリカ0.6%、中国2%、全世界は0.8%下押しされると試算しました。

両国の対立が貿易面に限られていればアメリカのほうはあまり深刻な影響を受けませんが、投資の面でも対立すれば、アメリカの対中国直接投資は約1000億ドルで中国の対米直接投資400億ドルを大きく上回るので、中国よりもアメリカのほうが大きな影響を受けることになるでしょう。


5. これから先はどうなるの?

最後に米中貿易戦争は今後どうなっていくのか、それを考えてみましょう。2020年1月の第一段階合意により米中間の対立はやや緩和されました。しかし、それで貿易戦争が終戦を迎えると考えるのは早すぎます。

なぜならアメリカの貿易赤字は今後も続き、恐らくは全く変わることがないからです。

マクロ経済学でよく使われる恒等式を変形していくと、国全体の貯蓄から投資を引き、財政収支を足した金額は、貿易収支の金額と等しくなります。

アメリカの貯蓄率は伸び悩み、トランプ政権になってから財政赤字は拡大傾向にあるため関税率などをいじった程度では貿易赤字に変化はないと予想されます。そのため、貿易黒字は利益、貿易赤字は損と考えるトランプ大統領は最大の貿易赤字相手国である中国に対する圧力を弱めることはないでしょう。


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