アメリカとイランの対立
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1. イランってどんな国?
イランは面積でいえば中東で二番目に大きい国です。イスラム教の最高指導者が最高権力を持つイスラム共和制を採用しており、イスラム教のなかでは二番目の勢力であるシーア派のイスラム教を国教としています。埋蔵量で世界の五指にはいる石油の産地ですが、1980年代のイラン・イラク戦争により経済が疲弊し、近年も経済制裁や激しいインフレによりかなり厳しい経済状況になっています。
2. アメリカーイラン関係の歴史
いまのアメリカとイランの関係を理解するためには第二次世界大戦終結のころまで時間を遡らなければなりません。
1951年、イラン首相モサデグが当時イランの石油資源を支配していたイギリスの国策会社の操業を停止させ石油国有化を断行しました。
しかし1953年、イギリス石油資本とアメリカCIAに支援を受けたイラン軍部によるクーデターが発生しモサデグ政権は倒れ、パフレヴィー国王による親欧米的な政権が誕生します。
その後イランの石油はアメリカ資本を中心とする国際石油資本により支配されます。アメリカは諜報機関を使い、イランの資産を奪った、ともいえ、イラン国民のアメリカへの不信が大いに募りました。
パフレヴィー国王は強力に西欧化政策を進めますが、その強権的なやりかたに国民の反感が強まり、1978年にイラン革命が発生します。国外へ逃げたパフレヴィー国王がアメリカ入国を許可されるとイラン国民は激怒し、その結果テヘランのアメリカ大使館人質事件が発生しました。
これは1979年11月に学生らが大使館を占拠し、アメリカ人外交官や海兵隊員とその家族52人が人質となった事件で、人質の解放は実に444日後のことでした。この事件はアメリカ国民に衝撃を与え、強い反イラン感情を植え付けることになりました。
両国は激しく対立し、ホメイニ師はアメリカを「オオアクマ」と呼び、アメリカはイランをテロ支援国家とみなしてブッシュ大統領はイランを北朝鮮、イラクに並ぶ悪の枢軸と呼びました。
2000年代にはいりイランが密かに核兵器開発を進めているという疑惑が浮上し、実際に地下に核関連施設を建設していることが明らかになりました。イランは核の平和利用と主張しますがアメリカは厳しい経済制裁を発動します。
その後難しい交渉の末にオバマ政権時代の2015年にイランとアメリカ等6カ国との間でイラン核合意が締結されます。イランは核開発の大幅制限と国内軍事施設の査察を受け入れ、アメリカ等は経済制裁を解除するというもので、これにより緊張関係は大いに和らぎました。
ところがトランプ大統領は2018年5月、一方的にこの合意からの離脱を決め、経済制裁を再開しました。
それから1年後の2019年5月、イランは対抗して核合意の制限を破りました。6月にはホルムズ海峡で日本とノルウェーのタンカーが、9月にはサウジアラビアの石油施設がなにものかにより攻撃を受けますが、アメリカはイランに責任があるとしてイランを非難しました。
2020年1月にはイラン軍精鋭部隊の司令官がアメリカにより殺害される事件が発生しました。それに対しイランはイラクにあるアメリカの空軍基地攻撃で報復しました。こうした経緯により両国の関係はいま極めて緊張した状態になっています。
3. 両国関係を考えるうえでのポイント
さて、アメリカとイランの関係は今後どうなっていくのでしょうか。それを考えるうで重要なポイントのいくつかをご紹介します。
まずはトランプ大統領の、オバマ前大統領の業績をなんでもかんでもひっくり返そうとする姿勢です。トランプ大統領は多国間の経済連携協定であるTPPからも地球温暖化を防ごうというパリ協定からも離脱しましたが、これらはいずれもオバマ前大統領が主導したものでした。イラン核合意も前大統領が主導したものであり、それがトランプ大統領が核合意からの離脱を決めた理由のひとつだといっていいでしょう。
次に、アメリカは原油の純輸出国となったということです。原油の輸入を必要とした時代とは異なりアメリカはイラン産の石油がなくても困らず、イラン産原油の禁輸で原油価格が上がるのであれば却って利益を得るといえます。アメリカには歴史的経緯や核拡散防止といった観点以外にもイランに経済制裁を課す理由があるといえるでしょう。
一方のイランの経済状況は大変厳しいという点にも注意が必要です。原油の輸出ができないイランの通貨価値は大きく下がり、激しいインフレが起きています。イラン国民の生活は目に見えて苦しくなっており、イラン政府へに対する不満が募り、反政府デモも起きています。
それから、両国ともに戦争を望んではいないという点です。全面戦争となれば大きな費用がかかります。ビジネスマン的な発想をするトランプ大統領が金銭的に大損をすることが確実である戦争という道を積極的に選ぶことはないでしょう。またトランプ大統領の今の最大の関心ごとは11月の大統領選で勝利することですが、戦争によりアメリカの若者が犠牲となれば大統領選での勝利が難しくなってしまいます。
一方のイランも、アメリカと戦っても勝てないことは明らかであり、負ければ国内政情が不安定なため、イスラム体制の維持も難しくなるので、抵抗はし続けなくてはならないものの全面戦争には陥りたくないと考えているはずです。
4. これから先はどうなるの?
これらのポイントを踏まえると、両国の関係は今後どうなっていくと考えられるでしょうか。
もっともありえそうなのは、両者いずれも戦争は避けたいと考えているため全面戦争に至ることはなく、しかしアメリカが態度を変えることはなさそうなので、今後も比較的小規模な衝突が続くということです。
しかしながら2020年11月のアメリカ大統領選でトランプ大統領が負けることになれば状況が変わるかもしれません。厳しい経済状況が続くイランは経済制裁の解除を強く願っているので、両者和解の方向に向かっていくことも考えられます。
なお、両国の対立が全面戦争に至る可能性は低そうですが、歴史にはちょっとしたボタンの掛け違いが戦争に繋がった例が少なくありませんので、両国の動向には注視し続ける必要があるでしょう。
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省略(動画でご覧ください)