地球温暖化とパリ協定〜コーヒーブレイクしながらわかる
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いまさら聞けない地球温暖化
もし地球に二酸化炭素がなかったとしたら、太陽から地球に降り注がれる光のエネルギーは、赤外線に姿を変えて地球から宇宙へと逃げてしまいます。この場合、地球の平均気温はマイナス19度になると言われています。
しかし実際には私たちの地球は二酸化炭素やメタンなどを含む待機で覆われており、地表から出た赤外線の一部は大気に吸収され、大気から再び地表に向けて放出されます。この効果により実際の地球の気温は平均して14度程度に保たれているのです。
つまり、温室効果ガスのおかげで地球は住みやすい環境となっているのですが、大気中の二酸化炭素などが増えると、大気から地表に向けて放出される赤外線が増え、気温が上昇してしまいます。これが地球温暖化です。
グラフは南極の氷を分析して求めた80万年前から現在までの大気中の二酸化炭素濃度と気温の関係です。これを見ると、確かに大気中の二酸化炭素の量と気温には相関関係があるようです。
これは、世界の気温が産業革命以降にどう変化したかを示したグラフです。1970年頃から気温は着実に上昇傾向にあり、現在までに1.2度ほど上がったことがわかります。これに大気中の二酸化炭素濃度のグラフを重ねてみると、やはりここでもはっきりとした相関関係が見えます。
2014年に、国連の補助機関である「気候変動に関する政府間パネル」、IPCCが出した報告書は、21世紀末の世界の平均気温は、2000年ころに比べて最大で4.8度高くなる可能性があるとしています。
普段の生活では、気温が1度や2度上昇したからといって、大した違いはありませんが、地球が温暖化するといったい何が問題なのでしょうか。
まず、海面の上昇です。南極の氷や氷河が海に溶け出すことや、海水温上昇による海水の膨張により海面が上昇します。このままでは今世紀中に80cm以上海面が上昇すると予測されており、既にフィジーやマーシャル諸島などで高潮による被害が大きくなっています。モルディブやツバルなどは国土の大半が水没してしまう可能性もあります。
日本でも、40cmの海面上昇で120メートル分の干潟が消滅します。1メートル上昇すると、全国の砂浜の9割以上が失われ、大都市でも海岸周辺は対策をとらなければ水没するでしょう。
我々日本人にとっては水害が増えることが大いに心配です。このところ数十年に一度とか百年に一度と言われるような大雨や洪水が毎年のように発生していますが、その原因が地球温暖化なのではないかと言われています。気温上昇により海や陸地から蒸発する水分量が増え、それが雲となるので、昔よりも大量の雨が降るようになった、と考えられるのです。また、陸から蒸発する水分量が増えたことで山が乾燥し、山火事が頻発するようになったり、水蒸気が水に戻る時に放出されるエネルギーが大きくなったことで、台風が巨大化するようになったとも考えられます。
陸から蒸発する水分が増えることで干ばつが広がり、食料価格が高騰したり、海水温の分布の変化により魚が減ったりして、食料不足が発生し、食糧をめぐる紛争につながる恐れがあることなども地球温暖化の問題として挙げられています。
パリ協定って何?
これは先ほどみた世界の平均気温の推移のグラフですが、地球温暖化の傾向がようやく見え始めた1992年に国連環境開発会議が開催され、温暖化や森林破壊など環境問題への対処方法が話し合われました。この会議で地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことが合意され、大気中の温室効果ガスの濃度を安定させることを目標とする「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択されました。
この条約に基づいて、1995年から、気候変動枠組条約締結国会議、いわゆるコップが毎年開催されています。
そしてその第3回会議、いわゆるコップ・スリーで京都議定書が合意されました。
京都議定書は、気候変動枠組条約の具体的なルールを規定するもので、先進国の、拘束力のある具体的な削減目標が定められました。そこでは、2008年から2012年の期間中に、温室効果ガスの排出量を1990年に比べてEUは8%、アメリカは7%、日本は6%削減することなどが約束されました。
この京都議定書は気候変動枠組条約のもとでの2020年までの温暖化対策の目標ですが、同じく気候変動枠組条約のもとでの2020年以降の目標を定めるパリ協定が、コップ21において採択され2016年に発効しました。
パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることを目指し、そのためにできるだけ早く温室効果ガスの排出をピークアウトし、21世紀後半には排出量と森林などによる吸収量をバランスさせる、とされました。
パリ協定の京都議定書との大きな違いは、京都議定書が先進国の義務を定めたものであったのに対し、パリ協定は途上国を含む世界中の参加国を対象とするという点です。グラフは世界の二酸化炭素排出量を示したものですが、中国やインドなどが排出量を大きく増やしており、京都議定書のように先進国だけを対象としたのでは効果が得られないことから、対象となる範囲が大幅に拡大されました。
それから、京都議定書では目標の達成は義務であり、達成できなければ温室効果ガスの排出権を買ったり、それ以降の目標を厳しく設定することが求められましたが、パリ協定では、目標の提出は義務付けられているものの、目標の達成は義務とはされていません。
また、京都議定書では先進国全体で少なくとも5%削減という目標があり、各国に排出量の上限を割り当てるトップダウン型でしたが、パリ協定は、各国が自主的に目標を設定する、ボトムアップ型となっています。
パリ協定は、途上国も含めた多数の国々が地球温暖化の抑制に向け努力するとの合意をしたという点では確かに意義があります。ただ、目標達成が義務ではないことや、各国が設定した目標が全て達成されたとしても、地球温暖化1.5度はおろか2度も到底達成できない見込みであることなどの問題もあります。
各国の取り組み
2018年の気候変動に関する政府間パネルによる「1.5℃特別報告書」は、パリ協定による各国の2030年までの目標が達成されても、2100年までに約3度の地球温暖化がもたらされるとしました。また地球温暖化を2度ではなく1.5度に抑えることには明らかな便益があり、地球温暖化を1.5度に抑えるためには排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、2050年ころに正味ゼロとする必要があるとしました。
この報告書が出て以降、世界の潮流は地球温暖化は2度ではなく1.5度に抑制することが
かなり高いハードルと言ってよく、目標達成のためには各国が相当の努力をしなければなりませんが、では各国が、それぞれどのような目標を立てているかを見ておきましょう。
排出量が最も多い中国は、GDPに対する二酸化炭素の排出量を2030年までに、2005年の60から65%削減し、2030年ごろをピークにして総量も減少させるとしています。中国はこの目標に向けて着実に進んでいるようですが、ただ、ひとつ問題なのは排出量削減の目標をGDPに対する比率で設定している点です。中国のGDPは2005年から現在までに約3.2倍になっており、今後も年率6%で成長するとすれば、2030年のGDPは2005年の約6倍となります。ということは、60%削減を達成したとしても排出総量は2005年の2.4倍となってしまいます。中国が今の目標に上乗せて削減を行わない限り、地球温暖化の目標は達成され得ないと思われます。
アメリカはパリ協定で排出量を2005年に比べて2020年までに17%、2025年までに26から28%削減すると約束しましたが、2019年11月にパリ協定離脱の手続きをし、その1年後の2020年11月に離脱する見込みです。世界最大の産油国でもあるアメリカにとって経済的なデメリットが大きいので、「アメリカ・ファースト」の考えから協定離脱となったのですが、排出量第二位のアメリカが排出量削減に積極的でなければ地球温暖化の抑制は成し得ないでしょう。ただ、京都議定書は民主党の当時のゴア副大統領が中心となって策定されたものであり、パリ協定も民主党のオバマ大統領がリードしてつくられたものですので、2020年11月にトランプ大統領が負け、民主党政権が誕生すれば状況は変わるかもしれません。
排出量、世界第3位のインドは、GDPに対する排出量を、2030年までに、2005年と比べて33から35%削減するとしています。中国と同じくGDPに対する比率を目標としており、今後も高い経済成長率が予想されるので排出量は増加することになりそうです。成長途上にある国の場合は止むを得ない面はありますが、やはり排出量削減に一層積極的に取り組むことが期待され、また、先進国が技術的、金銭的な支援をしていくことも重要でしょう。
EUは温室効果ガス削減に積極的に取り組んでいます。2030年の排出量削減の目標は1990年比40%で、また、再生エネルギーの比率とエネルギー消費の削減目標をいずれも27%としていましたが、2018年にそれぞれ32%と32.5%に引き上げました。目標達成に向けた進捗状況は概ね順調であり、先ごろ2050年に温室効果ガスの排出正味ゼロを目標とする法案が発表されました。また、2030年の目標も50から55%の削減へと引き上げられる模様です。
イギリスは、目標達成に向け順調に進んでいます。再生エネルギーの比率を伸ばし、原子力発電の比率を維持することで、二酸化炭素を排出する化石電源の比率を約2分の1に落としました。2019年6月には、2050年までに二酸化炭素の正味排出量をゼロとする目標を法制化しました。
フランスも、イギリスと同様に2050年までに二酸化炭素の正味排出量をゼロとする目標を法制化しました。ただ、目標達成はやや遅れ気味であり、その理由のひとつは、フランスは原子力発電の比率が非常に高く、化石電源を削減できる余地が小さいことです。そのため目標を達成するにはエネルギーの需要を減らすことが鍵となりますが、エネルギー消費効率が比較的高いので、それも簡単ではありません。
ドイツは、EUよりも厳しい、2030年までに排出量を55%削減する目標を掲げていますが、目標達成は遅れ気味です。石炭の産地であるドイツは石炭を使った火力発電の比率がかなり高く、また、原子力発電は2022年に全閉鎖を予定しているため減少しているので、化石電源への依存からの脱却は容易ではなく、目標達成のためにはさらなる取り組みが必要です。
日本の取り組み
日本は、2030年の温室効果ガス排出量を2013年に比べて26%削減することを目標としています。数字の上では目標達成に向けて削減が進んでいるのですが、基準年が原発事故の直後で原子力発電がほぼ停止していた年であり、原発が稼働すれば容易に排出量が減ることや、日本の削減幅は他国に比べて小さいという点には注意が必要です。
日本の電力供給の構成のグラフを、非化石化が順調に進んでいるイギリスや原子力発電の比率を大きく減らしているドイツと並べてみると、日本は再生エネルギーの比率の増加が大きく遅れていることがわかります。
気候変動問題に取り組む世界的なNGO組織である「気候行動ネットワーク」によれば、日本の、2013年比26%削減の目標は、1990年比では18%削減に過ぎず、この数字は他国に比べてかなり見劣りしています。パリ協定での各国の当初目標を積み上げても地球温暖化抑制の目標達成は難しく、各国のさらなる取り組みが必要であり欧州諸国はその方向で動いています。しかし日本は2020年3月に目標の据え置きを決めています。環境対策には産業界の強い反発がありますが、日本の対策は世界的にみて大きく遅れており、世界の潮流から取り残されつつあると言わざるを得ません。
Some clues...
省略(動画本編でご覧ください)