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本ページでは他サイト等に掲載された大薗治夫の過去の著作物を再掲しています。

シャングリ・ラへ

花博

昆明へ戻る

このシリーズでも既に一度書いたし、これを読んでいる人のほとんども経験したことがあると思うので書くのを躊躇するが、再び飛行機で不快な思いをした。

夕食後空港へ。シーサンバンナ―シー昆明間の便は日に十数便もあり、そのほとんどが夜に集中しているため携行品検査の所に長蛇の列ができている。見たところ私以外に外国人はいない。中国の所得水準上昇に伴い簡単に旅行ができるほど裕福な人が増えていることは知識としては知っているが、このような光景を見ればその規模が既に相当程度になっていることを痛感させられる。3~4年後、中国の各観光地はさらに増える観光客を収容しきれるのだろうか。現在アジア・オーストラリアの各観光地では、多くの場所で日本語が通じるが、10年後は中国語の方が通じるようになるかもしれない。春節時などは、アジア・オセアニアの観光地はどこへ行っても中国人ということになり、飛行機やホテルの予約は日本の正月のスキー場なみにとれなくなるに違いない。

30分は並んだだろうか。長蛇の列をやっとの思いでクリアしてほっとしたものの、飛行機に乗るときにまた一波瀾である。この国で飛行機に乗る時というのは多かれ少なかれ混乱があるものだが、シーサンパンナ便は飛行機に乗る機会の少ない旅行者が中心となるためだろう、今回の混乱は私の経験中、最もひどかった。タラップの前に人だかりができ、タラップまで2メートル程のところにいたのに、次から次へと割り込まれ一歩も前へ進めない(どころか徐々に後退してしまう)。機体後ろ半分の席の客は後方の入口にかけられたタラップから乗るのだが、一人の客が後半の座席でありながら前のタラップを上がろうとした。タラップの下でチケットをチェックしている女性職員は「後ろから」と言ったものの、客は無視して通りすぎる。職員が客の背中に向かって「止まれ!」と言いながら、客が肩から下げていたビニール製の袋をつかみ止めようとするが、袋は破け、客は構わずタラップを上がり機内に消えてしまった。怒った職員はかけ上がって行き、既に一度機内に入った客を引きずりだしてきた。しかし一瞬の間、タラップで交通整理をするはずの職員が持ち場を離れたため、他の客が既に何人もタラップを上がっており、収集がつかない状態となっていった…。

こんな混乱を通過してからも、昆明までの間、真中の座席であったため左右の客の肘と格闘し続けねばならなかった。


中国人と「列」

いつもながら思うが中国の列は日本とは違う。そもそも列が形勢されにくいという違いもあるが、列の単位長さ当りの人数も大きな違いだ。テーマパークなどで、アトラクション入場のために列ができている時、日本の感覚で列の長さを判断し「まあ10分待ちくらいなら並んでもいいか」などと思ってはいけない。同じ長さの列の中に中国ではだいたい3倍くらいの人がいる。つまり日本で10分待ちくらいの長さの列でも中国では30分程待たねばならない。中国に来たての頃、スーパーのレジで並んでいるとよく割り込まれ何度も腹をたてたが、今から考えれば、前の人との距離を中国では並んでいるとは認識されないくらい空けていたような気がする。日本流に並んでいた私の方が悪かったのだ。

中国人が前の人との距離を詰めて並ぶ理由について、ある人は「中国では狭い空間に多くの人が居住しているから、人と人との間にあるべき距離の感覚が日本人より近いのだ。だから前の人との間を詰めて列に並ぶ」と言っていた。確かにアメリカにしばらくいた後帰国すると、しばらく朝夕のラッシュがうっとおしくてしょうがないから、環境によって人と人との間の距離感覚が異なってくるということはありそうだ。そういえば、女性スタッフに任せたコンピューターへのデータ入力をチェックするような時、私が彼女のパソコンを叩いていると、説明する彼女の顔が、頬と頬が触れるくらい近づいてくる。彼女の方はなんの意識もないようだが、こちらは結構緊張させられる。前から奇妙に思っているのは、タクシーに女性といっしょに乗り、右のドアから(中国は右側通行なのでタクシーは通常右側から乗る)その女性が先に乗る時、奥まで(左端まで)行かず真中で止まってしまうことが多いことだ。友達にも至らない仕事上の関係であるにもかかわらずである。このような場面では、緊張した当方が右のドアにへばり付くようになってしまう。男女の間にあるべき距離感覚というのが日本人と中国人では異なっているのだろう。

EXPO '99

今回の旅行の目的第二は「中国'99昆明世界園芸博覧会」である。我々日本人は「花博」と呼んでいるが、花のみならず、「自然一般」と「人」との関係がテーマとのことだ(「21世紀への更新」がサブテーマとして掲げられている)。第一回世界博覧会が1851年にイギリスで行われて以来、今回が中国において開催される初めてのもので、218ヘクタールと広大な会場には、「中国館」「大温室」「人と自然館」「科学技術館」「国際館」といった室内展示場と中国各地や世界各国の庭園などがある。入場者数は1日約5万から多いときには10万に及ぶ。開催期間は99年5月1日から10月31日の184日間で、1000万人の入場が予想されている。

全体の印象としては、「想像していたよりは立派。でも博覧会のためだけに上海から訪れることもないかな」というところだろうか。きれいにまとまっているが、驚くような目玉もない。室内展示場は中国各地や各国を写真で紹介しているものがほとんどで、あまりおもしろいとは言えない。苦痛となるほどではないが、平日にもかかわらずかなりの人が出ていたので、週末に見てまわるのはちょっと大変かもしれない。他方で、屋外の各地・各国庭園は、散歩気分でのんびり歩けば結構楽しめる。園内中に置かれた花鉢は「もったいない」と思ってしまうほど短いタームで取り返られ、常に新鮮な状態が保たれている。途中休憩で「茶園」に立ち寄った。ここでは民族衣装を着た小姐が目の前で伝統的作法によってお茶を入れてくれる。このお茶が日本の高級緑茶のような味でなかなか美味であった。

訪れる前は「半日で充分だろう」と思っていたが、会場が広く、結局は午前11時から午後17時まで費やした。かなり歩き疲れたが、100元払えば運転手付き電動カートをレンタルできるそうだ。

花園大道

いくつか感心したものもある。まずは入口を入ってすぐの「花園大道」。これは本博覧会会場のメインストリートとでも言うべき道だが、横60メートル、長さ800メートルの区間に色とりどりの花がびっしりと植えられている。


屏風

次に中国館の中にある屏風だ。紅木製で、伸ばせば15メートル程度になるだろう。屏風の一枚一枚にそれぞれ1人、計100人の美人が描かれている。各美人はさまざまな色と透明度からなる石で描かれており、着物の模様などが象嵌細工によって細かく表現されている。服を透けてかすかに見える肌がなかなかセクシーである。この屏風は展示品であると同時に売ってもいるとのことで、その値段を聞いて驚いた。万が一誰かが買えばラッキーとの価格設定であろうが、10億人民元とのことだ。

大理ビール

もう一点は、かなり個人的趣味ではあるが、会場入口にある大きな大理ビールの看板である。どうしてこれに感銘を受けたか、右の写真を見てお分かりいただけるに違いない。本編の冒頭で述べた私の中での白族(小姐)に対する神話はさらに高まることとなった。

過橋米線

私はここで初めて有名な「過橋米線」を食べた。この名前は「橋を渡って持ってきても冷めない」ということで付けられた名前だそうだ。沸騰したスープが入った加熱された器が運ばれてきて、ここに自分で具と米でできた麺を入れる。よく火をとおす必要のあるものから器に入れなくてはならない。生卵、生肉、えび、野菜、麺といった順番だ。美味である。どう美味かを書きたいものの残念ながらそういう表現力はないが、「本旅行で一番うまかったと言えるほど」と言えばだいたいお分かりだろうか。

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