上海での家は“仮のもの”という意識もあり、僕はえらく狭い部屋に住んでいるのだ。掃除機をかける際にコンセントをつなぎかえなくても家中掃除することができる。バスタブなんかない。洗濯機を置くスペースすらない。週末ずっと家にいると「プリゾン・グレイク」したくなってくる。
で、2月のとある日曜日。特段の予定がなかったので突如思い立って無錫に行ってみた。ちょうど日本の新幹線車両を使った高速鉄道CRHが開業したというのでそれに乗ってみようと考えた。CRHの行き先のうち、杭州は過去に何度も行っているし、南京ではちょっと遠い。で、無錫。でもこの無錫行きについては本題ではないので、こちらのブログ記事をご覧くださいませ。
「春節前は切符の購入が困難なのでは」と心配したのだけれども、上海駅の西側端に位置する軟座専用の切符売り場では列もなくスムーズにチケットを購入できた。上海発のみならず、上海への戻りのチケットもここで買うことができる。
家から上海駅は高架鉄道に乗って20分ほど。上海駅前は春節前ということもあり人でごったがえしているけれども、あらかじめ軟座の切符があれば人ごみにもまれる必要もない。そして上海-無錫間の往復運賃はわずか1500円ほど。新幹線のグリーン車車両なので移動も快適だ。
無錫はなかなかおもしろかったし、気軽に往復ができたということから、その翌週末も小旅行に出かけることにした。行き先はCRHで無錫の次の停車駅、常州である。
CRHの感想を少々。
○日本の新幹線「はやて」車両がベースとのことだけど、いろいろと改造されている。窓は全て中国製のようだし、おもしろいのは、男性用トイレの窓が曇りガラスに変えられていること。日本の新幹線の男性用トイレは背中から頭にかけてが通路から見えるようになっている。あれはあれでちょっと恥ずかしいのだけれども、それを曇りガラスに変えてしまうと、かぎのかからないドアを突然開けられるのでは、という切迫感を持ちながら用を足さなくてはならない。どちらがいいかはなんともいえない。
○車両の座席がある部分とジョイント部分の間のドア、なぜ開けっ放しなのだろう。日本では自動ドアだ。端っこの席に座ると、ちょっと寒いしちょっとうるさい。
○それから、車内にず~とかかっている音楽はなんとかならないのかなぁ。まあボリュームは抑えられているけれども、相変わらずのKenny G。なぜに中国人はKenny Gがこんなにも好きなんだろう。
○そのほか、いろいろなものがみごとに中華風に変わっている。チケットの売り方は相変わらず、二人で乗ろうがなんだろうがお構いなしに順番に席を埋めていくので、あちらこちらでカップルや家族などが周囲の人に席を代わってくれるよう頼んでいる。ゴミ袋兼嘔吐袋はもちろん常備。座席は、無錫に行った週には付いていなかったのに、翌週にはグレーの(というか灰色の)シートカバーがつけられていた。シートカバーが付くことで、なんだか一気に安っぽくなってしまった。
○とはいえ、全体的には十分合格点。中国の鉄道独特の変なにおい(香水のにおいなのかなぁ?)もないし、車内は静かでシートのすわり心地もいい。
○なお、乗るときは絶対に「一等軟座」にしましょう。日本の新幹線のグリーン車両だ。「二等軟座」との値段差はわずかに10元ほど。「二等軟座」の三人掛けの真ん中はいかにもシンドそう。日本の新幹線なら三人掛けの真ん中の席になることは少ないけれども、中国では結構満席になっている。
特段常州で何をするでもない、観光地はあるのかもしれないけれども、全く調べず、駅からホテルへ直行し、翌日午後までずっとホテルで過ごした。
泊まったのは「富都商貿飯店」。シャングリラホテルがマネージメントするという5つ星ホテルだ。「商貿」はトレーダーズの訳。トレーダーズはシャングリラホテルのビジネス向けブランドだ。2005年オープンと新しいホテルで、部屋もロビーも廊下もきれいで気持ちがいい。
部屋は40平米と広い。かなり大きなデスクがあり、ベッドはキングサイズで、さらにソファも置かれているがそれでもかなりスペースが余っている。内装もきれいで、僕の上海の部屋から比べれば天国だ。室温だけでも快適。僕の上海の部屋の空調は、動いている間は暑すぎ、しばらくすると勝手に切れるが、その後はひどく寒くなる。DVD機が置かれており、家から持ってきたDVDを見ながら仕事をした。
ただちょっと気にかかったのはタオルとバスローブの材質。シェラトン・ウェスティンなどスターウッズ系のホテルやマリオット系列のホテルでは、やわらかでふかふかなタオル・バスローブの気持ちよさが一つのウリである。でも当ホテルのそれはちょっと硬く、なんだかケバケバ感があった。
26階から上の階はエグゼクティブフロアとなっており、最上階31階にある「トレーダーズクラブ」を利用することができる。トレーダーズクラブでは17時から19時にかけて無料のアルコール及び軽食のサービスがあり、また無料の朝食ビュッフェもある。
プールは縦25メートルで、かつ空いているのでエクササイズに非常にいい。新しいため大変清潔感もある。僕は運動不足の身体を動かすために土日両日泳ぎに行った。
ホテル6階にはマッサージやエステトリートメントを受けられる施設がある。またそれとは別に4階には「温泉」がある。こちらは男性専用でマッサージは原則全室一人用個室でとのことなので、「特別サービス」のある店なのだろう。外資系5つ星ホテルでそんなサービスがあってもいいのか、と思ってしまうけど、一応ホテルとは独立経営とのことだ。でもジムとプールの間の位置にあるのだから、独立と客に思わせるのには無理がある。部屋の中にもこの「温泉」のきれいなパンフレットが置いてあったし。そういえば以前北海のシャングリラに泊まった時も、特別サービスのあるマッサージ店が入っていた。シャングリラは少しそういう方面にゆるいのかもしれない?
レストランは中華の他、日本料理の「西村」がある。日本人板前氏が常駐しており、本格的和食を楽しむことができる。
ここでちょっとトラぶったお話。
チェックイン後、部屋でホテルの施設などを調べているとフロントから電話がかかってきた。ハスキーボイスの小姐があやしげな英語で
「チケットをください」 という。
「何のチケットですか?」
「部屋のチケットです」
「え?部屋のチケットって何ですか?」
「……」しばらくの沈黙があってから「後でまた電話します」
一方的に電話を切られた。
その後すぐ、帰りの鉄道のチケットを手配してもらうためにビジネスセンターに行ったのだが、そのついでにフロントに立ち寄り「何か用?」と聞いてみた。
すると英語のできるスタッフが出てきて
「バウチャーがほしいのですが」と言う。
「バウチャーなんてないですよ。シャングリラのウェブサイトで直接予約したんですから」と僕。
「え~と、インターネットですか……わかりました。すいませんでした」
約1時間後、部屋で仕事をしていたら再び電話がかかってきた。今度はあやしげな日本語の男性である。「トレーダーズ・クラブ」のフロントからである。
「すいません。切符を買ってほしいんですが」
「えっ?切符を買う。鉄道の切符のお金はもう払いましたよ」
「いえ。いろいろメリットのある切符です」
「よくわからないなぁ」
「すいません。電話では難しいのでちょっと来ていただけませんか」
呼びつけるとは何事か、と思いつつも、僕はパソコンのフタを閉めてトレーダーズ・クラブのフロントへ向かった。
あやしげ日本語氏曰く
「この価格でこの部屋に泊まるためには897元の優待券を買っていただく必要があるのです」
こういわれて僕は切れた。そもそも何度も電話をしてきたりしてうんざりしていたこともある。
「インターネットにはそんなことは一言も書いていなかった。780元+15%とあるのを確認して予約したんだ。それなのになんでさらに優待券を買わなくてはならないんだぁ!%&$@#O=~’(以下、怒りにまかせてむちゃくちゃな中国語が続く)」
ただ、よくよく聞いてみると、どうやら事前にそのバウチャーを買って、チェックアウト時に使え、ということらしい。インターネットに表示されていた価格とそのバウチャーの価格はちょうどサービス料の分の違いである。でも声を荒げてしまった手前、それで納得するわけにもいかない。「そんな話聞いたことがない」「なぜチェックイン時に言わないんだ」「何度も電話をかけてうっとおしいことこの上ない」等々、頭に浮かぶ限りの文句を並べた上で、「価格が同じなら君らで処理できるはずだ。今は絶対に払わない。僕はチェックアウトの時に清算する」といってその場を後にした。
トラブル話はまだある。
僕の予約した部屋は1時間のマッサージ・トリートメント込みのものである。夕食をとり、ひと泳ぎして、さらにちょっと仕事をしてからの23時頃に行こうと考えていた。部屋に置かれていたパンプレットで開業時間が夜中2時までということは確認していた。しかしこの部屋に置かれていたパンフレットは4階の「温泉」のものだった。僕は23時ちょっと前に「温泉」のほうにいき、どうやらここは違うぞ、と気づきすぐに出て6階に向かった、が既にクローズしていた。
となるとチェックアウト日に利用するしかないが、オープンは14時30分とのことで、帰りの汽車は16時05分発で、1時間のトリートメントを受けたら時間があまりにタイトである。でもせっかくパッケージで買ったサービスを受けずに帰るのはもったいないし、このホテルについて紙を書くためにも是非行ってみなくてはならない。そこで14時30分からのトリートメントを予約した。15分ほど早く終われば汽車には間に合うだろうし、おそらく早めにスタッフは出勤して来るだろうから、少し早めに始めてもらえばいいだろうと思ったのである。
翌日、13時30分から15分おきに6階に行ってみたが、ドアが開かない。そして14時30分。それでも誰も来ないのでフロントへ行き状況を聞いてみた。曰く、スタッフが来ていない、とのこである。「予約している」といったが「予約が見当たらない」と返されてしまった。切れた。「%&$@#O=~’」 再び相手には半分も通じていないだろうと思われる中国語でまくしたてた。
とまあトラブルがあり、要は「最高級というには一歩足りない高級ホテル」ということなのだろうけれども、全般的には満足な1泊旅行だった。2時間ほどで上海の雑踏を離れ、広くきれいな部屋で、快適なインターネットを使って平日にたまった仕事を片付ける。仕事に飽きたら階下のジムやプールでエクササイズ。疲れたらスパや、ちょっとセクシー気分の人は「温泉」へ。夕食は日本人板前による和食店で。往復旅費を含めすべてで1500元もかからない。2万円ほどである。
この上海週末1泊旅行、しばらく病みつきになりそうだ。
(2007年2月記)
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